軽井沢からの通信ときどき3D

移住して11年目に入りました、ここでの生活と自然を写真と動画で発信しています

地震予測と対策(5)

2023-02-10 00:00:00 | 地震
 政府の地震調査研究推進本部(地震本部)は1月13日、日本各地で想定される巨大地震の最新の発生確率値を公表した。これは年に1回見直されているもので、今回の発表は算定基準日を令和5年(2023年)1月1日として再計算を行ったものであるという。

 この発表内容を、早速報道各社が伝えたが、内容は微妙に異なっており、見出しは次のようであった。

●読売新聞 南海トラフで20年以内に巨大地震「60%程度」に引き上げ...「いつ起きても不思議は
 ない」
●産経新聞 南海トラフなど昨年と変わらず70~80% 30年以内の大地震発生確率
●日本経済 「20年以内」発生確率、一部で微増
●毎日新聞 南海トラフや十勝沖、地震発生確率を引き上げ
●朝日新聞 南海トラフ巨大地震 20年以内の発生確率が上昇、「60%程度」に
●東京新聞 大地震、20年内確率一部で微増
●共同通信 大地震、20年内確率一部で微増 政府調査委、今年の再計算
●テ  レ  朝   南海トラフ地震 発生確率は20年以内に「60%程度」に引き上げ

 直接、地震本部が発表した内容を見ると、「公表の内容」には次のように書かれている。

 「地震調査委員会では、これまで将来の地震の発生可能性を評価する長期評価の中で、地震の発生確率値の算定に、想定された地震が発生しない限り、発生確率値が時間の経過とともに増加するモデル※を基本的に用いています。
 このため、評価結果については、その値がいつの時点を基準として算定された発生確率であるか、が重要となります。
 これまでは、令和4年(2022年)1月1日を基準日として算定された地震の発生確率値を公表していました(令和4年1月13日公表)。
 今回、これまでの算定基準日から1年が経過したことから、算定基準日を令和5年(2023年)1月1日として再計算を行いましたので、令和5年(2023年)1月1日を基準日として算定した地震の発生確率値として、長期評価による地震発生確率値を更新します。 」 
 「※ 評価対象の地震の最新活動時期が不明な場合等は、時間の経過にかかわらず、発生確率値は一定となるモデル(ポアソン過程)を用いて発生確率値を算定しています。これらの地震については、今回の再計算の対象にはなっていません。 」

 ここで示されているように、地震調査委員会が発表している長期評価では、想定された地震が発生しない限り、発生確率値が時間の経過とともに増加するモデルであり、BPTモデルを採用しているという。

 BPT とは Brownian Passage Time の略で、気体の分子運動の記述に使われているモデルで「ブラウンの酔歩モデル」とも言われている。

 プレート境界の地震は、短い間隔で起こる事もあるが長い時もあることから、このモデルが採用された。このモデルでは、ある年まで地震が起こらなかったという条件を入れるため、地震発生確率は毎年変化する。毎年更新される ので「更新過程」と呼ばれるとのことであるが、そのため地震調査委員会では毎年1月1日に地震発生確率を更新して発表している。これが今回の発表であり、過去の地震の発生頻度によって、発表される確率の数値は変化するものもあれば、ほとんど変化が見られない地域もある。報道各社が伝える内容は地震調査委員会の発表内容のどの部分を強調するかにより、微妙に異なるものとなっていることが分かる。

 今回の発表内容から、今後20年、30年以内の地震発生確率をみると次のようである。

活断層で発生する地震の発生確率値の更新後の値(地震調査委員会HPより抜粋)

海溝型地震の発生確率値の更新後の値(地震調査委員会HPより抜粋)

 この中で注目すべきはやはり赤字で示した海溝型地震のうちの千島海溝・根室沖地震と、南海トラフ地震ということになる。
 昨年の発表と異なっているのは、南海トラフの20年以内の地震発生確率値のみであり、前回「50%~60%」であったものが、「60%程度」に変更されているが、その他は変わっていない。

 こうした微妙な違いは、この数値算出に用いられているモデルによることは上述のとおりだが、この数値がどのように算出されているか、特に南海トラフ地震について詳しく見ておこうと思う。

 首都直下地震の発生確率の計算はポアソン分布をもとに行われていることを以前確認したが(2022.12.9 公開当ブログ)、これは首都南部で過去発生した活断層型地震は、個々の断層ではその発生間隔が非常に長く、多くの断層でランダムに起きていることから採用されたものであった。

 一方、海溝型地震、中でも今回対象にする南海トラフ地震では、発生間隔が比較的短く、また過去の記録も次に示すように、ある程度残されていることから、前記のBPT分布関数を採用しているとされる。


過去の南海トラフ地震の発生年と震源域の場所(地震調査委員会 「南海トラフの地震活動の長期評価(第二版)」より)

 地震発生確率のBPT分布関数の式は次のように表わされる(梅田康弘 「地震の発生確率(Ⅰ)」2012 )。

  
      
 ここで、fは確率密度、tは経過年数、μは平均の地震発生間隔、αは発生間隔のバラツキの程度を示す数値である。

 仮に、μ=114、α=0.24 としてこの式をグラフ化すると次のようになる。発生間隔の114年は上の図の1605年の慶長地震以降に起きた4回の地震の間隔の単純平均値であり、α=0.24は地震調査委員会でも採用している数値である。


μ=114、α=0.24 とした場合の、BPT( Brownian Passage Time )モデルによる地震発生確率分布図  

 1946年の地震発生後の経過年数と、その時点での地震発生確率が、このように示される。

 このグラフを積分すると1になるが、地震発生確率が最大になるのは、発生間隔の平均値として用いた114年から推測される2060年よりも幾分早い2051年になっている。

 次に、ある時点から30年以内に地震が発生される確率はどのように求められるかを見ておく。次の図は上図の横軸を延ばして西暦2200年までを改めて描いたものだが、2023年現在から30年以内に地震が発生する確率Pは、この確率曲線の描き出す面積 aと bから次のように求められる。


 BPTモデルによる地震発生確率分布図と、これを用いて30年以内に地震が発生する確率を計算する手順

               P=a/(a+b)

 この確率Pを20年間および30年間確率について、起算年ごとにグラフ化したものが次の図である。


μ=114、α=0.24 とした場合の、BPT( Brownian Passage Time )モデルによる20年後、30年後までに地震が発生する確率

 これによると、2023年現在から20年以内および30年以内に、南海トラフで巨大地震が発生する確率はそれぞれ25.1%と41.5%と導かれる。

 この数値は、今回地震本部が公表した数値と比較するとずいぶん乖離があり計算の条件が異なっていることが分かる。では、今回地震調査委員会が発表した20年以内60%程度と30年以内70%~80% とした数字がどのように導かれたかをみてみようと思う。

 地震本部の公表資料には次のように記されている。

 「地震調査委員会では、南海トラフで発生する地震(南海地震、東海地震)の地震発生確率を評価する際、時間予測モデルを採用している。時間予測モデルでは、 次の地震までの時間間隔が前回の地震の規模に応じて、変化するとしている。これは プレート運動などにより、地震間に一定の割合でひずみが蓄積していき、限界値を超えたところで地震が起きてひずみが解放されるという考え方である。地震により解放 されたひずみの量、すなわち地震の規模は、断層上のすべり量に比例する。このモデ ルに基づいて前回の地震の規模(すべり量)から、次の地震までの発生間隔が予測で きることより、『時間予測モデル』と呼ばれる。南海地震においては、過去3回の南海 地震による室津港の隆起量が求められているため、この隆起量に時間予測モデルを適用することが可能であると判断した。・・・

 時間予測モデルを用いた場合のαは、データ数が少ない点を考慮すれば、むしろα =0.20 より大きめの値とすべきと判断した。このため、陸域の活断層のデータから得ら れたαの値も考慮して、時間予測モデルにはαとして 0.20~0.24 を用いることとした。・・・

 時間予測モデルが成立しているかどうか、あるいはその物理的な背景 については議論が続いており、現在のところはっきりとした結論は出ていない。現時点では、南海トラフの地震に時間予測モデルを適用することについて、問題点はあるものの、モデルそのものを否定するだけの情報は無いため、前回と同じく時間予測モ デルを用いて発生確率の評価を行うことにする。 」

 次図は、この時間予測モデルで用いられている潮位から推定した室津港の隆起量と発生間隔の関係を示したものである。


時間予測モデルで用いられている潮位から推定した室津港の隆起量と発生間隔の関係(地震本部公表 2013.5.24 より  )

 このモデルによると、昭和地震の次の地震が発生するまでの時間間隔は、過去の平均発生間隔より短くなると推定され、88.2 年とな る。

 ここで示されたμ=88.2、α=0.20~0.24 とした場合の、BPTモデルによる南海トラフ巨大地震の発生確率密度および、20年後、30年後までに地震が発生する確率を求めると、次のようになる。

μ=88.2、α=0.20 とした場合の、BPT( Brownian Passage Time )モデルによる地震発生確率分布図  

 
μ=88.2、α=0.20 とした場合の、BPT( Brownian Passage Time )モデルによる20年後、30年後までに地震が発生する確率

 この計算結果によると、来るべき南海トラフ巨大地震の発生確率が最も高くなるのは、時間予測モデルが示す2034年より5年早い2029年になる。20年後、30年後までに地震が発生する確率はそれぞれ、62.6%、81.3%になる。

 続いてμ=88.2、α=0.24 とした場合の、BPTモデルによる南海トラフ巨大地震の発生確率密度および、20年後、30年後までに地震が発生する確率を求めると、次のようになる。 

μ=88.2、α=0.24 とした場合の、BPT( Brownian Passage Time )モデルによる地震発生確率分布図  

μ=88.2、α=0.24 とした場合の、BPT( Brownian Passage Time )モデルによる20年後、30年後までに地震が発生する確率

 この場合には、発生確率が最も高くなるのは、2027年と予測され、20年後、30年後までに地震が発生する確率はそれぞれ、62.6%、81.3%になる。

 これらをまとめたものが次の表である。


BPT( Brownian Passage Time )モデルによる20年後、30年後までに地震が発生する確率のまとめ

 これらの計算結果から、冒頭紹介した南海トラフ巨大地震についての地震本部の公表値は、BPTモデルを基本とし、地震発生間隔 μ値に時間予測モデルから得られる数値を代入しており、αには0.24に近い値を採用することで計算されたものであることが理解できる。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ウクライナ情勢(1/31~2/6)

2023-02-07 00:00:00 | ウクライナ情勢
1月31日
・安保や経済協力 ギリシャと一致 首脳会談
・イラン軍需工場に無人機 イスラエルの攻撃か 
 「対露支援の報い」ウクライナ指摘
・ドネツク州 露、ウフレダル攻撃強化 ウクライナ軍分散狙いか
・プーチン氏が脅し発言 英BBC 侵略開始直前、英首相に
 「ケガさせたくないが、ミサイルなら1分」
・ウクライナ侵略 1年 戦車供与 補給が課題
 英国際戦略研究所 リサーチアナリスト ヨハン・ミシェル氏
・ウクライナ兵が英到着 供与の戦車操縦訓練
・日韓とNATO 連携を北警戒か
・尖閣調査 ドローン空撮・石垣市 中国海警船接近 海保が間に

2月1日
・NATOと安保協力強化 中露念頭 首相、事務総長と会談
・反撃能力 戦闘機飛来時も 衆院予算委 首相、行使対象で言及
・対中露の網広げる 日NATO会談 台湾有事への危機感背景
・欧州、日韓と関係強化 露侵略で重要性再評価
・米韓「北の核」想定訓練 韓国内の不安払拭 狙いも
・核・ミサイル開発 安保理情報共有 非公開会合
・ポーランド「F16供与用意」 ウクライナ支援 米独は慎重姿勢
・ウクライナ侵略 1年 露の核使用 可能性低く
 米エモリー大教授 ダン・レイター氏
・露・イランの銀行 送金など容易に 決済システム接続

2月2日
・ミャンマー国軍 背後に中露 武器支援や投資 民主化圧力 ASEANそろわず
・【社説】日NATO会談 ようやく対中認識が一致した
・軍政 弾圧と経済苦 ミャンマー クーデター2年 長男死刑判決 悲痛の親
 家族6人 月給1万5000円
・軍事政権正当性 「認められない」 国連人権理報告書
・東部ドネツク 攻防激化 ウクライナ 露、集落制圧を発表
・米、射程150キロ弾供与へ ロイター報道 2600億円超追加支援
・新START 「露履行せず」 米国務省指摘
・NATO事務総長講演 1日、慶応大で
・米国務長官 露に親書 エジプト外相経由でウクライナ侵略の「停止と撤退」求める
・中国軍機が中間線越え 台湾海峡周辺防空識別圏
・ウクライナ侵略1年 父子の5日間 永遠の別れ 避難先で初対面 直後に戦死
 妻「幸せな家族へ強く生きる」

2月3日
・北ミサイル 窃取800億円 31発相当 暗号資産ハッキング 韓国分析
・経済安保 極超音速 特許非公開 指針原案 宇宙、サイバーも
・独ソ戦80年 プーチン氏演説へ 侵略協力 国民に呼びかけか
・フィリピンの米軍拠点増 米比国防相会談 対中抑止力強化へ
・政府の新安保戦略 評価 前国家安保局長
・「国境離島」4島 島から外れる 領海に影響なし
・ミクロネシアと連携へ 首脳会談
・防衛産業支援へ 自民有志準備会
・竹森俊平の世界潮流 対中政策 西側結束に暗雲 米の先端技術規制 EUが疑念
・北ハッカー 捜査かく乱 ベトナム企業へのサイバー攻撃
 盗んだ暗号資産を分散、中露の取引所で現金化 標的「情報」から「外貨」へ
・イラン核設備 無申告で変更
・米韓空軍 最新鋭機で訓練 黄海上 連携強化、北は猛反発
・「対ナチス」重ね 正当化 ウクライナ侵略 プーチン氏 国民の共感狙う
・韓国大統領が来月訪日検討か
・安保理24日閣僚級会合 侵略1年
・ウクライナ 新興財閥捜索 汚職撲滅アピールか
・米インド太平洋軍 前司令官と会談 台湾総統
・パリ五輪 欧州「ロシア復帰」に反発 ラトビア、ボイコット検討
・米五輪委会長がIOC方針支持 米報道

2月4日
・日比 災害訓練を円滑化 首脳合意へ 対中安保 深める
・「台湾侵攻27年までに準備」 習主席指示を把握「野心は明確」 CIA長官
・ウクライナ軍 訓練 規模拡大 EU、首脳会議で表明へ
・中国偵察気球 米で飛行 米高官明かす 撃墜は見送り
・「露に親しみ」過去最低5% 内閣府調査
・【社説】露の軍事会社 侵略支える無法組織を許すな
・サイバー防衛「政府主導で」 関連機関 1都市に集約
 イスラエル国家サイバー局長 ガビ・ポートノイ氏
・海自と海保 共同訓練へ 防衛相方針
・ミクロネシア大統領 「国際秩序に反する」 露侵略を批判
・中国気球「リスク限定的」 米緊張回避 対応に批判も 
・プーチン氏演説 独戦車供与に「対抗措置」 独ソ戦80年 核使用も暗示
・「ウクライナ軍後退させる」 露外相 米欧兵器供与をけん制
・ウクライナへ旧式戦車供与 独輸出許可
・豪へ原潜配備 早期実現確認 英豪2プラス2
・米韓が合同訓練 黄海上空
・ウクライナ反発「残念」 IOC見解 露選手復帰方針巡り
・ウクライナ現状伝え支援 電子メーカー「KOA」 NGO招き授業・高校生とグッズ

2月5日
・米国務長官 訪中を延期 偵察気球 「主権侵害」非難
・地球を読む 反撃力保有 空想的平和主義の終幕 武器輸出の制約緩和を
 北岡伸一 東大名誉教授
・ウクライナ バフムト「撤退せず」 大統領 士気低下警戒か
・米、21億7500万ドル軍事支援 射程150キロ ロケット弾供与
・露産石油上限 1バレル100ドル合意 G7・豪・EU
・EU・ウクライナ「結束」 軍事訓練やエネ支援強化 キーウで首脳会議
 EU加盟 温度差も
・防空システム 仏伊が供与へ
・侵略1年 各国駆け引き ゼレンスキー氏 国連演説へ
・偵察気球 米中 対立激化望まず 対話は継続 中国側「遺憾の意」
・米韓「拡大抑止」確認
・ワールドビュー 日英 危機感共有する「準同盟国」 欧州総局長 尾関 航也

2月6日
・米、中国偵察気球を撃墜 領海上空 収集情報 分析へ 中国「強い不満と抗議」
・中国「気球部隊」世界に 民用主張 米高官「ウソだ」 米確認5回目 
 戦略支援部隊関与か 米施設を監視
・ウクライナ 東・南部4州「露軍の管轄下」 タス通信 併合 既成事実化か
・クリミア長射程攻撃なら 核兵器含む手段選ばず報復 メドベージェフ氏
 「ウクライナ全域が炎上する」
・「ワグネル」貢献誇示 創設者のプリゴジン氏 露政権、政治的野心を警戒
 レストランを露西部で経営
・英戦車訓練開始 ウクライナ兵へ
・ウクライナ研究者 露と共著反対 CERN 日本も痛手 素粒子論文250本未掲載
・厳冬・「空襲」練習厳しく 柔道GS(グランドスラム)パリ大会 ウクライナ代表

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

選挙

2023-02-03 00:00:00 | 日記
 選挙権を得てから半世紀以上、この間何度投票に出かけてきたか。特別な事情がない限り、選挙が行われれば必ず投票をしてきた。

 選挙へのかかわりは、ただただ無党派の有権者として投票するばかりで、特にどなたかを応援するとか、後援会に入会するといったこともなかった。ましてや選挙に立候補するという被選挙権の行使ももちろんない。

 昨年から、その選挙へのかかわりに僅かな変化が起きている。選挙の「投票立会人」のお役が回ってきたのである。

 昨年は2回その機会があった。7月10日の参議院議員通常選挙と、8月7日の長野県知事選挙であった。そして今年は、年始早々1月22日に町長選挙があった。

 これまでも同様であるが、当日は朝7時から夜の7時まで、投票所に詰めることになる。何事も経験してみなければ分からないところがあるもので、12時間じっと座っていることはなかなか大変なことである。途中、トイレ休憩やお茶・おやつの時間、昼食の時間はもちろん設けられていて、4人が交代で席を外すことは認められているのであるが。

 投票を終えた方の多くは我々に一礼したり、お疲れ様ですと声をかけていかれるのであるが、これには励まされる。顧みて自身はどうであったか、投票後立会人の方々にねぎらいの声をかけたことがあっただろうかと反省させられるのである。

 当然、投票には様々な年齢層の方々が訪れるが、中には杖を突きながらの人や、思うように動かない足を引きずるようにしてゆっくりと部屋に入ってきて、投票を済ませて出ていく方もいる。相当な高齢の方で家族に付き添われ、支えられながらということもあるし、一般用の立ち位置での記入台ではなく、特別に用意された記入台の前で、椅子に腰かけて投票用紙に記入する人もいる。

 そうした時には、町から派遣されてきた職員が、投票箱をその方の近くまで運んでいくこともある。

 このように、選挙というものは多くの有権者にとり、とても重要な権利の行使と考えられているのであるが、しかし、その一方で投票率は低位安定状態にあることもまた事実である。

 さて、1月22日に行われた軽井沢町長選挙の結果は夜九時過ぎに判明し、速報として、新人の土屋みちお氏が現職の藤巻進氏を破り初当選したという結果が軽井沢町のホームページに掲載された。内容は次のようである。

「軽井沢町長選挙開票速報(2023年01月22日 21時13分)
 本日執行された軽井沢町長選挙の開票結果をお知らせします。
 開票率        100%
 投票者数      9,701人
 土屋 みちお    3,995票
 押金 ようじ    2,452票
 藤巻 進      2,599票
 下田 しゅうへい     605票
 (候補者掲載順は立候補届出順)・・・」

 翌日の新聞には次のような、より詳しい記事が掲載された。

「開票結果(年齢は投票日現在)
 当 3,995 土屋三千夫 65 無新
   2,599 藤巻  進 71 無現
   2,452 押金 洋仁 55 無新
      605 下田 修平 45 無新
         (選管確定)
 土屋三千夫
 経営コンサルタント
 会社社長▷早大商▷
 軽井沢町

 軽井沢町長に土屋氏 初当選
 
  軽井沢町長選は22日投開票され、無所属新人で経営コンサルタント会社社長の土屋三千夫氏(65)が、いずれも無所属で4選を目指した現職の藤巻進氏(71)と、前町議の押金洋仁氏(55)、建機メーカー社員の下田修平氏(45)の2新人を破って初当選した。当日有権者数は1万7567人。投票率は55.22%(前回44.61%)だった。・・・
 土屋氏は・・・あいさつ。まず取り組むべき課題として、新庁舎建設計画の見直しに着手する考えを示した。
 藤巻氏は、・・・3期の実績を掲げたが支持が伸びず、
 押金氏は町政のわかりやすい情報発信などを主張したが及ばなかった。
 下田氏は新庁舎建設の基本設計のキャンセルを訴えたが浸透できなかった。」

 今回の軽井沢町長選挙では投票率は上記のとおり前回比で10ポイント強伸びた。それでもまだ低いと思うが、今回投票率が伸びた要因の一つは当選した土屋氏や押金・下田候補が挙げていた新庁舎建設というわかりやすい争点が提示されたことにあったと考えられる。

 これまでの3期、町長を務めた藤巻氏が、自身の町長としての仕事の総仕上げといった思いを込めて計画したのが、新庁舎ではないだろうか。町が発行している機関紙「広報かるいざわ」の令和5年1月1日号で、藤巻町長は新庁舎について次のように述べていた。

 「建設から54年経過した役場庁舎を建て直します。・・・令和9年春に竣工予定です。庁舎本体の建築工事費ですが、当初は37.5億円を見積もっていましたが、・・その後の資材高騰で現在は50億円と算出されています。・・・また中央公民館、老人福祉センターもなくなりますので、それらに代わる複合施設も時期をずらして整備することになります。これから50年、60年と、二世代、三世代に渡り利用する施設ですので、使用に耐えられる、来庁者が利用しやすい環境配慮型の新庁舎を造らなければなりません。・・・」

 新庁舎の建設費に関しては、「議会だより軽井沢」の令和4年7・9月 No.136号(2022.10.25 発行)に、議会の意見と共に他自治体との建設費の比較表が次のように示されていた。

                             
「議会だより軽井沢」令和4年7・9月 No.136号より
   
 これによると、町庁舎改築とそれに伴う周辺施設を取り入れた複合施設建設、別途費用などを含めた総工費は110億円と見積もられる。この数字が話題となり、今回の町長選挙の重要な争点になっていったという経緯がある。  

 選挙公報から各候補者の主張をみると次のようであった(公報掲載順)。

令和5年1月22日執行 軽井沢町長選挙公報から(軽井沢町選挙管理委員会作成)

 ここから新庁舎建設費用に関する部分だけを見ると次のようである。

*下田しゅうへい氏
 新庁舎建設計画の根本的見直し
 ・設計コンペをやり直してでも、他自治体並みの60億円に事業費を抑える
*押金ようじ氏
 役場新庁舎の計画見直し
 ・着実に減額する方向で基本設計を見直し
*藤巻 進氏
 記載なし
*土屋みちお氏
 100億円超の新庁舎等整備計画は凍結してみなおし

 この新庁舎・複合施設の事業に関して地元紙「軽井沢新聞」の11月号(2022.11.10 発行)では基本計画のポイントをまとめ、紹介している。

 その中で、「庁舎の計画は誰がどうやって決めているの?」という項があり、次のように記されている。

 「基本方針や計画を町総務課が作成し、検討委員会が議論してきた。検討委員会は令和元年に設置され、コンセプトや規模、機能、方針などを協議し、基本方針や基本計画について意見交換や協議・検討を重ねてきた。令和元年12月から令和4年7月まで委員会を8回開催。このほか町議会議員らによる庁舎検討特別委員会でも議論されている。設計案はプロポーザル審査会で決定。7者から選ばれたのが山下設計・三浦慎建築設計室設計共同体で、次点は坂茂設計事務所だった。

 ・検討委員会のメンバー(18名)
  *藤居良夫さん(元信大准教授)
  *池田靖史さん(建築家)
  *押金洋仁さん(町会議員)
  *土屋芳春さん(観光協会長)
  ら各団体代表、公募による住民3名
 ・議員による庁舎検討特別委員会(16名)
  *全議員(議長:押金洋仁さん)
 ・プロポーザル審査委員(8名)
  *團 紀彦さん(マスターアーキテクト)
  *横島庄治さん(町都市デザイン室参与)
  *藤巻 進さん(町長)
  *藤居良夫さん
  *池田靖史さん
  *押金洋仁さん(以上検討委員)
  や職員の代表ら。」

 藤巻進現町長以外の3人の候補者はいずれも新庁舎(等)の建設費が大きすぎると考え、町長選挙では建設計画の見直しを訴えたのであったが、選挙の結果は上記の通りで、現在の建設計画推進を訴えた藤巻進氏の得票割合は約27%にとどまる厳しい結果になった。

 選挙争点のもう一つは軽井沢の自然・景観環境に関するものであった。この点でも3人の新人候補者は現在の軽井沢で進められている開発・建設計画に対して懸念を示していた。

 この選挙公報を補う形で、選挙戦が始まる直前の1月11日には候補者4名による公開討論会が開催された。主催者は一般社団法人軽井沢青年会議所である。

 会場となった軽井沢町中央公民館 大講堂には大勢の町民が集まり関心の高さを感じさせ、会場は満員の盛況であった。

 討論会は司会者があらかじめ用意した5つほどの質問に、各候補者が指名される順に3分以内で答える形で進められ、会場からの質問や候補者間での質疑は認められておらず、粛々と進められた。

 この公開討論会の質問内容と似通った「アンケート」に対する、各候補者の回答は地元紙「軽井沢新聞」の臨時特別号 2022/2023 にも掲載された。質問内容は次のようであった。
 *問1 町長になって必ずやりたいことは
 *問2 軽井沢町の抱える最も大きな課題と、解決のための施策は
 *問3 問2の他に、力を入れたい政策は
 *問4 移住者増による開発の進行と、自然環境の維持をどう考えるか
 *問5 コロナ禍がまもなく3年を迎える 取り組むべき対策は
 *問6 開かれた町政にするための具体案は

 軽井沢町を巡る環境が大きく変わろうとしている中で行われた今回の町長選、住民の願いを込めた投票により下された選挙結果を受けて、新町長はどのように民意を反映した町政のかじ取りをするのか、また今後町政をつうじてどのように町を変えていくのか、見守りたいと思う。もうすぐ4月には、町政を担うもう一方の主役である町議会議員選挙も予定されている。

貼り出された軽井沢町長選挙ポスターの掲示板(2023.1.19 六本辻で撮影)
  
コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする