すちゃらかな日常 松岡美樹

サッカーとネット、音楽、社会問題をすちゃらかな視点で見ます。

【サッカー日本代表】日本がW杯本大会で勝てない5つの構造的欠陥とは?

2015-10-10 09:59:27 | サッカー戦術論
5つのポイントが無限ループする魔のサイクル

 ハリルジャパンがスタートして以降、日本がW杯本大会で勝てない構造的な欠陥が徐々に明らかになりつつある。このままでは、おそらく日本は100年たっても本大会で勝てない。ではその構造的欠陥とは何か? 今回は5つのポイントごとに、症状とその処方箋を書いてみよう。

【ポイント1】 日本はアジア予選用と本大会用の2つの戦術を使い分ける必要がある。

 アジア予選(特に2次予選)では格上の日本に対し、アジア各国はリトリートしてロングカウンター、あるいは引き分け狙いでくる。下で説明するポイント3、ポイント4とも関係するが、こういう戦い方でくるアジア各国に対し日本はグラウンドを広く使い、低いゾーンに密集する敵の守備者を横に広げさせる必要がある。

 だが一方、W杯本大会では、ドイツやブラジルはアジア予選のように日本をリスペクトしてくれない。逆に前からがんがんプレスをかけてくる。するとこれまたポイント4と関係するが、「大きなサッカー」が苦手な日本人はマイボールになったら選手間の距離を縮め、敵のプレスを避けて互いにサポートし合う必要が出てくる。グラウンドを広く使わなければならないアジア予選とまったく逆だ。

 とすれば日本は、アジア予選用と本大会用の2つの戦術を使い分ける必要がある。だが「たかが」アジア2次予選でアップアップしている今の日本には、アジア予選の段階からそれと並行してあらかじめ本大会用の戦術を仕込んでおく余裕などない。

 するといったい何が起こるか? やっとアジア予選を勝ち抜けば、すぐ本大会が始まるのだ。その時点で本大会用の戦術を練習し始め、それを熟成させて行くなどという時間的猶予なんてない。結果、日本はぶっつけ本番で本大会に臨み、予選リーグで敗退してしまうーー。この魔のサイクルから抜け出すのは容易ではない。

 第二次・岡田ジャパンのように、本大会では割り切ってリトリートする守備的なサッカーに徹するなら話は別だが、そうでなければ日本がこの魔のサイクルを打ち破るのはカンタンじゃない。W杯のたびにまったく同じ負けのサイクルを繰り返し、あっというまに100年たつだろう。

【ポイント2】 アジア予選は、勝ちながら「若手育成の場」にしなければならない。

 ハリルジャパンのようにアジア2次予選からもう「いっぱいいっぱい」で、海外組を完全固定するのでは若手は育たない。結果、前回大会で負けた同じベテランメンバーで次の本大会を戦うことになる。しかも彼らは前回より4歳年を取っているのだ。そんなメンバーで勝てるわけがない。

 とすれば処方箋は2つしかない。「たかが」アジア2次予選では積極的に若手を登用し、テストしながら勝って行く。そして本大会を勝ち抜くフレッシュな人材を育てる。これがひとつ。

 そしてもうひとつは根源的な問題だ。Jリーグ自体が優れた若手の供給源になることである。だがあの東アジア・カップでの惨状を見ればわかる通り、現状ではJリーグ・レベルの選手は「世界」では通用しない。とすれば長期計画を立て、Jリーグのレベルアップを地道に進めて行くしかない。

 代表選手の供給源である国内リーグを盛り立てるーー。これを実現しない限り日本に明日はない。それには途方もない時間がかかるが、根気よく長期計画でやるしかない。にもかかわらずワールドカップが迫るたび、「次の大会はベスト4が目標だ」などどノーテンキな空気が横溢する怪奇現象が日本ではしょっちゅう起る。まったく笑止千万だ。

 本大会で勝つためには、なにより日本は100年計画でJリーグを強化する必要がある。

【ポイント3】 日本はサイドからのクロスで勝負できない。

 さてポイント3からは技術的な問題になる。日本にはテクニカルで有能なクロッサーがいない。これはサイドから勝負できないことを意味する。アジア予選ならいざ知らず、レベルの高いW杯本大会で中央突破に頼るしかテがないなんてありえない。それでは勝てるはずがない。

 ゆえに日本はこれまた長期計画で、育成段階から強く意識して優良なクロッサーを育てる必要がある。これには数十年単位の時間がかかるだろう。

【ポイント4】 日本人は「大きなサッカー」ができない。

 日本人選手は正確なロングボールを蹴る技術がない。そのため必然的に選手間の距離を詰め、どうしても「小さいサッカー」をすることになる。つまりブラジルW杯で勝てなかったザックジャパン=「バルセロナの劣化バージョン」スタイルである。

 例えば日本はサイド(特に前のウイング)の選手がタッチラインめいっぱいに開き、そこに逆サイドのサイドバックからダイアゴナルなピンポイントの長いサイドチェンジを入れるような攻めがまったくできない。技術的に無理だ。

 それでも前々回のW杯で優勝したスペイン代表やバルセロナみたいに飛び抜けた技術があるなら、ショートパスの連続ワザで局面を打開できるだろう。だが日本はあくまで彼らの劣化バージョンでしかない。そんなレベルのチームがW杯本大会で勝てるわけがない。

 結論として日本人は小さいサッカーしかできないが、我々の小さいサッカーは本大会でワールドクラスの組織的なプレスをかけられれば粉砕される。ゆえに日本はロングボールを駆使した大きなサッカーができるようになるまで、本大会で勝つのは容易ではない。これにも長期計画が必要だ。

【ポイント5】運動量が絶対的に足りない。

 現代サッカーに「休み時間」はない。相手にボールを奪われれば、次の瞬間にすばやく相手ボールをクローズするための守備体形に入る必要がある(ネガティヴ・トランジション)。逆に相手からボールを奪ったら、すかさず攻撃のためのポジショニングをしなければならない(ポジティブ・トランジション)。これをやるには相当な運動量がいる。

 翻って日本はどうか? ネガトラのほうはまだマシだが、ポジトラの悪さは致命的だ。

 例えば相手からボールを奪えば、まずバックパスや横パスをしてひと休み。相手の守備体形が十二分に整うのを待ってやってから遅攻をかけるクセが治らない。この点も日本がブラジルW杯で勝てなかった要因のひとつだ。

 そこへハリルが就任し、「縦に速いサッカーを」、「ハイプレスからのショートカウンターを」と言い出した当初こそ戦い方が変わる兆しがあった。だが時間が経ち、いまや元の木阿弥に戻ろうとしている。なぜなら相手が引いてくるアジア2次予選で「縦に速いサッカー」や「ハイプレスからのショートカウンター」は相手の戦術とかみ合わないから当然である。

 では本大会になったら急にそれができるのか? そんなワケがない。とすれば本大会が始まる前にあらかじめ戦術を仕込んでおく必要があるが、ここで問題は【ポイント1】へと戻って無限ループする。

 果たして日本はこの魔のサイクルから抜け出せるのか?

「ハリルがなんとかしてくれる」でなく、日本人自身が真剣に考えなければならない構造的な課題である。

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