勝てないながら武藤、遠藤ら頼もしい新戦力が芽を出す
本大会でのハリルジャパンは、3試合で3種類の戦術を試した。
まず初戦の北朝鮮戦ではタテに速いサッカーを、第2戦の韓国戦では逆にリトリートからのロングカウンターを、そして最終戦の中国戦ではボール保持率を高めるポゼッション・スタイルを、と1戦ごとに異なるサッカーを模索した。
そのなかでいちばんハマっていたのは第3戦のポゼッション型であり、この結果だけ見ればザッケローニ元監督を見切った意味がまったくない。
ただし問題はこれからだ。ハリルホジッチ監督が就任当初から掲げていたハイプレス&ショートカウンター・スタイルに加え、1試合のなかで局面の変化に応じ適宜ポゼッションの要素をうまく散りばめて行けば、今後トータルとしてバランスのいいサッカーになるだろう。その意味では、最終戦の中国戦でつかんだポゼッション・スタイルへの手応えは今後に生きる。
ただしこの試合での中国はプレスをかけてこなかった。ゆえに日本はノー・プレッシャーの状態でラクにポゼッションできた。この点には強く留意しておく必要がある。すなわちこのチームの中長期的な課題は、厳しいプレッシャーを受けたなかで「どんなサッカーができるのか?」である。今後の推移を注意深く見守る必要がある。
海外組が抜けると日本代表はこれだけグレードダウンする
本大会は、「海外組が抜けると日本代表はこれだけグレードダウンする」という層の薄さが実証された大会だった。
ただしそのなかでも通算2点を取った武藤雄樹(浦和レッズ)や、攻守に大きく貢献した若い遠藤航(湘南ベルマーレ)、最終戦にきて起用され1アシストに加え質の高いカバーリング能力も見せた米倉恒貴(ガンバ大阪)など、よい結果を出した新戦力も少なからずいた。
また今大会で点も取ったボランチ・山口蛍は、積極的に前へ出てプレスをかけるスタイルで存在感を示した。中国戦でボランチとして新たに名乗りをあげた遠藤航とあわせ、ボランチのポジション争いはすっかりホットになってきた。また泥臭いハードワークが光る倉田や藤田もおもしろい存在だ。
もちろん結果を出した新戦力は確かに一部の選手だし、海外組のレギュラー達に取って替わるレベルだとまではいい切れないかもしれない。だが限定的にせよ、選手層の底上げになった大会だったといえるだろう。
毅然として「テスト」に徹したハリルホジッチ監督
1分け1敗で迎えた最終戦の中国戦。ふつうなら「絶対に勝ちたい」となる局面だった。だがハリルホジッチ監督はスタメンで計算できる選手だけに頼らず、まだ出場してないDFの米倉恒貴(ガンバ大阪)、丹羽大輝(同)、GKの東口順昭(同)の3人を使った。
このスタメンを見れば、大会に対する監督のスタンスは一目瞭然だ。ハリルは本大会で単に結果だけに囚われず、ガマン強く新戦力をテストし続けたのだ。
第2戦を終えて1分け1敗。近視眼的な監督批判が世間に巻き起こるなか、ハリルは決して世論に迎合しなかった。自分の哲学とポリシーを曲げない芯の強さを見せた。この点は高く評価されるべきだろう。すべては「テスト」なのだ。確かに勝ち星という意味では直接的な結果は出なかったものの、そんな彼のチーム運営は批判されるような内容では決してない。
ただしいつまでも結果を出せない川又と永井に拘泥し、最後まで彼らに固執し続けた点は大いに疑問がある。例えば最終戦はスタメンに川又でなく興梠、永井でなく倉田や藤田を選んでおけば結果は変わっていた可能性もある。
これは単に結果論でなく、第3戦を迎えた時点ですでに川又と永井への評価は固まっていてしかるべきだったと考える。このあたりの選手の見極めについては、ハリルは自分独自の価値観にこだわりすぎ、バランスを欠いたようにも見える。
こうした選手起用に関する不可解が今後もまだ尾を引くようなら、結果、それがもしかしたら監督解任運動の契機になって行くかもしれない。もちろん、そうならないことを祈ってはいるが。
期待を大きく裏切った宇佐美と柴崎
なお大会全体をトータルで見て機能した選手、機能しなかった選手はそれぞれ以下の通りである。(どちらにも含まれない選手は、出場時間不足などの理由で判断を見送った選手)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【機能した選手】
武藤、遠藤、山口、槙野、森重、米倉、倉田、藤田、興梠、西川
【機能しなかった選手】
川又、永井、宇佐美、柴崎、太田、浅野
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
選手別に見ると、特に才能と能力にあふれる宇佐美と柴崎、太田の3人は期待されながら、その期待を大きく裏切る結果になった。宇佐美は実質45分間しか持たないスタミナと、出来不出来の差の激しいムラっ気なプレイぶりが顕著だった。ゴールが取れなかったのも致命的だ。
また柴崎は実質的な「10番」と目されながら、最後までチームの軸になり切れなかった。そのプレイぶりからは自分がチームを背負っているという気持ちが感じられず、彼の大きな特徴である決定的なラストパスも出せなかった。
一方、韓国戦に出場した太田は持ち前のクロスの精度がきわめて低く、また韓国が彼のサイドを起点に攻めたこともあり防戦に追われた。ただし彼は十分な出場時間が与えられたわけではなく、これだけで総括してしまうのは酷かもしれない。またもちろん宇佐美と柴崎の代表キャップはこれで終わるわけではなく、本大会は長い長い道程の1里塚でしかない。今後の成長に期待したい。
一方、同様に結果が出せなかった川又と永井については、基本的な技術レベル自体に疑問がある。これについては彼ら自身というよりも、彼らを選んだ監督自体の責任が大きい。また若い浅野については経験不足に加え、途中出場ばかりでうまくゲームに入れなかった。機会があれば今度はぜひスタメンで見てみたい。
なお西川、東口の両GKについては川島を脅かすほどのさらなるインパクトがほしいが、ひとまず本大会の結果としてはまずまずのところだろう。
さてハリルジャパンの「東アジアカップ2015」冒険編は、ひとまず終わった。今後、このチームがいったいどんな化学変化を起こし、それによって日本が目指すべき「世界で勝てるサッカー」はどう変わるのか?
今後も興味深く見守って行きたい。
本大会でのハリルジャパンは、3試合で3種類の戦術を試した。
まず初戦の北朝鮮戦ではタテに速いサッカーを、第2戦の韓国戦では逆にリトリートからのロングカウンターを、そして最終戦の中国戦ではボール保持率を高めるポゼッション・スタイルを、と1戦ごとに異なるサッカーを模索した。
そのなかでいちばんハマっていたのは第3戦のポゼッション型であり、この結果だけ見ればザッケローニ元監督を見切った意味がまったくない。
ただし問題はこれからだ。ハリルホジッチ監督が就任当初から掲げていたハイプレス&ショートカウンター・スタイルに加え、1試合のなかで局面の変化に応じ適宜ポゼッションの要素をうまく散りばめて行けば、今後トータルとしてバランスのいいサッカーになるだろう。その意味では、最終戦の中国戦でつかんだポゼッション・スタイルへの手応えは今後に生きる。
ただしこの試合での中国はプレスをかけてこなかった。ゆえに日本はノー・プレッシャーの状態でラクにポゼッションできた。この点には強く留意しておく必要がある。すなわちこのチームの中長期的な課題は、厳しいプレッシャーを受けたなかで「どんなサッカーができるのか?」である。今後の推移を注意深く見守る必要がある。
海外組が抜けると日本代表はこれだけグレードダウンする
本大会は、「海外組が抜けると日本代表はこれだけグレードダウンする」という層の薄さが実証された大会だった。
ただしそのなかでも通算2点を取った武藤雄樹(浦和レッズ)や、攻守に大きく貢献した若い遠藤航(湘南ベルマーレ)、最終戦にきて起用され1アシストに加え質の高いカバーリング能力も見せた米倉恒貴(ガンバ大阪)など、よい結果を出した新戦力も少なからずいた。
また今大会で点も取ったボランチ・山口蛍は、積極的に前へ出てプレスをかけるスタイルで存在感を示した。中国戦でボランチとして新たに名乗りをあげた遠藤航とあわせ、ボランチのポジション争いはすっかりホットになってきた。また泥臭いハードワークが光る倉田や藤田もおもしろい存在だ。
もちろん結果を出した新戦力は確かに一部の選手だし、海外組のレギュラー達に取って替わるレベルだとまではいい切れないかもしれない。だが限定的にせよ、選手層の底上げになった大会だったといえるだろう。
毅然として「テスト」に徹したハリルホジッチ監督
1分け1敗で迎えた最終戦の中国戦。ふつうなら「絶対に勝ちたい」となる局面だった。だがハリルホジッチ監督はスタメンで計算できる選手だけに頼らず、まだ出場してないDFの米倉恒貴(ガンバ大阪)、丹羽大輝(同)、GKの東口順昭(同)の3人を使った。
このスタメンを見れば、大会に対する監督のスタンスは一目瞭然だ。ハリルは本大会で単に結果だけに囚われず、ガマン強く新戦力をテストし続けたのだ。
第2戦を終えて1分け1敗。近視眼的な監督批判が世間に巻き起こるなか、ハリルは決して世論に迎合しなかった。自分の哲学とポリシーを曲げない芯の強さを見せた。この点は高く評価されるべきだろう。すべては「テスト」なのだ。確かに勝ち星という意味では直接的な結果は出なかったものの、そんな彼のチーム運営は批判されるような内容では決してない。
ただしいつまでも結果を出せない川又と永井に拘泥し、最後まで彼らに固執し続けた点は大いに疑問がある。例えば最終戦はスタメンに川又でなく興梠、永井でなく倉田や藤田を選んでおけば結果は変わっていた可能性もある。
これは単に結果論でなく、第3戦を迎えた時点ですでに川又と永井への評価は固まっていてしかるべきだったと考える。このあたりの選手の見極めについては、ハリルは自分独自の価値観にこだわりすぎ、バランスを欠いたようにも見える。
こうした選手起用に関する不可解が今後もまだ尾を引くようなら、結果、それがもしかしたら監督解任運動の契機になって行くかもしれない。もちろん、そうならないことを祈ってはいるが。
期待を大きく裏切った宇佐美と柴崎
なお大会全体をトータルで見て機能した選手、機能しなかった選手はそれぞれ以下の通りである。(どちらにも含まれない選手は、出場時間不足などの理由で判断を見送った選手)
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【機能した選手】
武藤、遠藤、山口、槙野、森重、米倉、倉田、藤田、興梠、西川
【機能しなかった選手】
川又、永井、宇佐美、柴崎、太田、浅野
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選手別に見ると、特に才能と能力にあふれる宇佐美と柴崎、太田の3人は期待されながら、その期待を大きく裏切る結果になった。宇佐美は実質45分間しか持たないスタミナと、出来不出来の差の激しいムラっ気なプレイぶりが顕著だった。ゴールが取れなかったのも致命的だ。
また柴崎は実質的な「10番」と目されながら、最後までチームの軸になり切れなかった。そのプレイぶりからは自分がチームを背負っているという気持ちが感じられず、彼の大きな特徴である決定的なラストパスも出せなかった。
一方、韓国戦に出場した太田は持ち前のクロスの精度がきわめて低く、また韓国が彼のサイドを起点に攻めたこともあり防戦に追われた。ただし彼は十分な出場時間が与えられたわけではなく、これだけで総括してしまうのは酷かもしれない。またもちろん宇佐美と柴崎の代表キャップはこれで終わるわけではなく、本大会は長い長い道程の1里塚でしかない。今後の成長に期待したい。
一方、同様に結果が出せなかった川又と永井については、基本的な技術レベル自体に疑問がある。これについては彼ら自身というよりも、彼らを選んだ監督自体の責任が大きい。また若い浅野については経験不足に加え、途中出場ばかりでうまくゲームに入れなかった。機会があれば今度はぜひスタメンで見てみたい。
なお西川、東口の両GKについては川島を脅かすほどのさらなるインパクトがほしいが、ひとまず本大会の結果としてはまずまずのところだろう。
さてハリルジャパンの「東アジアカップ2015」冒険編は、ひとまず終わった。今後、このチームがいったいどんな化学変化を起こし、それによって日本が目指すべき「世界で勝てるサッカー」はどう変わるのか?
今後も興味深く見守って行きたい。