すちゃらかな日常 松岡美樹

サッカーとネット、音楽、社会問題をすちゃらかな視点で見ます。

【サッカー・東アジアカップ】ポゼッション・スタイルへの転換点 〜日本1ー1中国

2015-08-10 13:14:24 | サッカー日本代表
タテに速いスタイルとポゼッションとの融合が進むか?

 東アジアカップ最終戦になった中国戦。日本はこの試合でそれまでのタテに速いサッカ一辺倒から、ポゼッション・スタイルとの融合にトライした。結果は上々。中国のプレスが甘かったせいもあり、初戦、第2戦とはまったく別のチームのような滑らかなパスワークを見せた。

 戦術的には時計の針を30年くらい昔に巻き戻したような凡戦ではあったが、ポゼッションへの手応えをつかんだ日本にとっての意味は大きい。

 一方、新戦力発掘という意味では、最前線のお笑い芸人、じゃない武藤(浦和レッズ)の華麗なゴールショーや、この日右SBからボランチにコンバートされ獅子奮迅の活躍をした若い遠藤航(湘南ベルマーレ)、また今大会この試合で初出場した左SB・米倉恒貴(ガンバ大阪)の大ブレイクなど、ひさびさに明るい話題が多い試合になった。

新戦力のテストに徹したブレないハリル

 前半10分、中国に先制され「またか」とイヤなムードが漂った。だが日本は40分、センターバックを務める槙野の強くて速いグラウンダーの鋭い縦パスを受け、左SBの米倉が爆発的なダッシュでゴール近くまで抜け出した。そしてダイレクトで折り返しを入れる。

 これに鋭く反応した武藤が倒れ込みながらすばらしいダイレクト・シュートを決めた。武藤は初先発・初代表ゴールとなった北朝鮮戦での得点と合わせ、通算2点目。大会得点王となる目ざましい働きをした。ゲームは1ー1のまま引き分けで終わった。

 日本のシステムは4−2−3−1。1分1敗で迎えたどうしても勝ちたい最終戦だった。だがハリルホジッチ監督はまったくブレなかった。「新戦力の発掘」という今大会の当初からの位置づけ通り、平然と3人の大会初出場選手を抜擢しテストした。左SBの米倉と右SBの丹羽大輝、GKの東口順昭(いずれもガンバ大阪)だ。

 センターバックは槙野、森重の不動のコンビ。また今大会、右SBとしてA代表デビューを飾るや攻守に気を吐きまくる遠藤航をボランチに抜擢し、山口蛍と組ませた。前の両翼は左に宇佐美、右に永井。トップ下は初戦の北朝鮮戦以来の武藤が務めた。ワントップは川又だ。

ハイプレス&ショートカウンター一辺倒からの脱却へ

 さてフタを開けるとそこには懐かしい風景が広がっていた。相手ボールになってもコースを切るだけ、互いにプレスをかけ合わない。よくいえば牧歌的な80年代のようなのんびりしたサッカーが展開された。

 日本はサイドチェンジを織り交ぜながら、あわてずじっくりポゼッションした。まるで時計の針をブラジル・ワールドカップ前に戻したかのような試合運びだった。当時とちがうのは徹底した遅攻だったザックジャパンとくらべ、無意味なバックパスや最終ラインでのボール回しがない点だ。

 またフィニッシュもサイドをうまく使い、ザックジャパンのように中央偏重に陥らない。真ん中から左右へのボールの散らしも有効だった。その意味ではあきらかにザックジャパンとは違う、進化系のポゼッション・サッカーといえる。

 日本はハリルホジッチ監督就任以来、監督が標榜する「タテに速いサッカー」を実現しようとあせる余り、無意味でアバウトなタテパスを繰り返した。そして試合を壊してきた。

 だがこの試合ではボランチを務めた遠藤と山口がボールをいったん落ち着かせ、タテに急がなかった。うまくゲームをコントロールしていた。その意味ではポゼッション・サッカーに初挑戦した中国戦は、いい意味でやっと日本が「親離れ」した試合だといえる。

 今後は監督が目指すハイプレス&ショートカウンターのスタイルに加え、試合の局面に応じて要所でポゼッションを織り交ぜれば新しいスタイルが熟成する。それはトータルバランスに優れたサッカーになるだろう。この戦術的な転換は、今回の東アジアカップで得られた大きな収穫である。

 ただしこの試合は中国がほとんどプレスをかけてこなかったため、そのぶん「ラクにポゼッションできた」という見逃せない側面がある。つまり日本が自然にポゼッションできたのは、中国のプレスが甘かったからだ。

 一方、世界の頂点であるロシア・ワールドカップ本大会を見据えれば、厳しいプレスを受けた状態で「どんなサッカーができるのか?」こそが問題である。それがハリルジャパンの中長期的なテーマになる。世界レベルはその次元だ。くれぐれも「中国戦でポゼッションできたから」などと楽観することのないよう、気をつけたい。

じゃない武藤劇場、開演する

 次は選手別に見ていこう。この試合での武藤と遠藤、米倉の活躍はすばらしかった。まず武藤は前半13分に米倉に見事なスルーパスを出し、受けた米倉はシュートまで行った。このプレイを皮切りに、華麗な武藤劇場が演出された。

 いちばんのハイライトは、いうまでもなく前半40分の先取点だ。倒れ込みながらのあの輝かしいゴールは、おそらく少年たちのあこがれの的になり、そして未来のJリーガーがその背中を見て育っていくーー。そんな貴重な瞬間に立ち会えたことを誇りに思う。

 また武藤は守備も精力的にこなし、相手ボールになると中国のボールホルダーにプレッシャーをかけていた。この日の武藤は前回先発した北朝鮮戦とちがい、時間が経過しても足が止まることはなかった。後半28分に柴崎との交代で退いたが、少なくとも私の目にはさほど運動量が落ちているようには見えなかった。あれはむしろ柴崎を出したいための戦術的な交代だったのではないだろうか?

 一方、ボランチに入った遠藤は、中盤を精力的に動き回り「だれがチームの中心なのか?」をカラダで見せつけた。左右へのボールの散らしやタテへの繋ぎ、カバーリングなど、どのプレイひとつ取っても「なるほど彼はボランチが本職だ」と見る者のだれをも納得させるプレイを続けた。本大会での彼のプレイを見る限り、出来不出来のムラがある柴崎でさえボランチのレギュラーは危なくなったのではないか? と思わせた。

ポリバレント米倉が大ブレイクする

 また今大会、この試合で初出場した左SB・米倉恒貴の働きは目覚ましかった。前半40分には武藤のゴールをお膳立てする爆発的なオーバーラップと完璧な折り返しを見せ、まず名刺を置く。

 また後半5分には左サイドをドリブルで駆け上がり、シュートまで行く。後半30分にもいいオーバーラップを敢行した。加えて攻撃だけでなく守備もよく、後半15分頃にはすばらしいカバーリングをした。

 米倉はジェフ千葉時代はもともと右SHだったが右SBにコンバートされ、点を取れるSBとして知られていた。現在所属するガンバでも右SBで試合に出ている。で、実は本ブログでもつい先日、中国戦のスタメン予想記事で、先発メンバーとして米倉を右SBで推したばかり。

 なのに代表ではいきなり逆のサイドの左SBで初先発し、しかもあの大活躍である。今後は彼のことを「ポリバレント米倉」、もしくは「ミスター・ポリバレント」、あるいは「サッカーパンツをはいたポリバレント」と呼ぼう。

 彼は前からイケメンとして知られており、2014年にはネット上に「イケメン度はすでに日本代表クラス」としたまとめページが立ち上がるほど。ところがどっこい、実はイケメン度なんかよりサッカーセンスのほうがはるかに凌駕していた、というオチがついた。

「日本代表はSBが不足している」といわれていたが、まったくこんな逸材がいるならガンバとハリルは「もったいぶらずに早く出せよ!」って感じだ。しかも中国戦の内容だけから判断すると、この人ったらなんと「左右両SB」ができるんですよぉ? しかも彼を右SBで使えば中国戦のように、遠藤航をボランチで使うことができるのだ。

 この中国戦での新兵器・米倉の新たな発掘は、遠藤のボランチ当確、武藤のチーム得点王ゲットと並び、とんでもなく大きな収穫といえる。

 しかも彼が(この試合だけでなく)左右両用のSBとして継続的に力を発揮できるのだとすれば、チームのメンバー構成的にはいい意味での「流動性」が高まる。例えば試合の展開に応じ、彼を右SBから左SBに動かし(もちろん逆もありえる)、そのぶんほかの選手を投入したり、だれかを交代させるなどさまざまなカードが切れる。このアドバンテージはとんでもなくデカい。

 ぶっちゃけ、今回の東アジアカップは武藤と遠藤航、米倉の3人を新たに発掘できただけでも大成功だ。「屈辱の最下位」、「連覇ならず」などという、サッカーを知らない無知なマスコミの扇情的でくだらない見出しなどクソ食らえだ。

「東アジアカップ、新戦力が躍動し大成功に終わる」

 これが正しい見出しである。さあ、次行こ、次。
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