本棚を整理していたら、この本がでてきました。
エヴァ・シュヴァンクマイエロヴァー(絵・文)の「オテサーネク」。チェコの民話です。
あらすじは、ざっと言えば、こんな感じです。
子供のいない夫婦が、どうしても子供を欲しくて、人間の赤ちゃんの形に似た切り株を拾ってきます。その切り株に、オテサーネクという名前を付けて、あたかも自分の本当の子供のように接していると、ある日その子が「かあさん、なにかたべたいよ。」としゃべりだします。最初は、母親が用意した食事を食べていたのですが、そのうち、育ての親である夫婦、外に出てからはたくさんの人間、動物などを食べてどんどん大きくなっていくという食人木のお話。
子供に読み聞かせる事は…できるのかな?日本の民話も海外の童話も案外残酷な内容が多いから、意外と大丈夫なのかな?
どうして、この絵本を持っているかというと、以前、オテサーネクに因んだマリンバソロ作品を演奏したからです。
絵本止まりだったらいいのですが、マリンバソロを弾くために重要な鍵を握っているのが、この民話をもとに作られたヤン・シュヴァンクマイエル脚本·監督の映画「オテサーネク 」です。
映画の中で、気持ち悪い木の赤ん坊が人間を食べていくシーンは、映像も音も、気持ち悪すぎて超ホラーです。
この映画から、インスピレーションを受けてソロマリンバの為に作曲されたのが、「クロマトグラフーシュヴァンクマイエルによせて-」です。作曲されたのは、アメリカを拠点に活躍する三浦寛也さん。なんと私の為に書いて下さいました。当時は、コロンビア大学の博士課程の学生さんでした。現在は、アメリカのベイツ大学で教鞭を取られています。
初演した時のタイトルは、「お腹をすかせたオテサーネク」でした。日本語訳は私が勝手にしたものですが、原語で言うと、"Otesánek is hungry"。
のちに改題されて、「クロマトグラフ」(Chromatograph-Hommage to Švankmajer- for solo marimba)になりました。
演奏にあたって、関係ある作品は表現する上で大きなヒントになるので、たとえスプラッタのホラー映画であろうと、私は頑張って観ます。
演奏する為にはイメージを膨らませることが大切なので、練習していた当時は、これらの作品を鑑賞してから、自分なりのイメージを絵に表わしてみたりしてました。下手ですが、イメージが大事なので(笑)そこら辺にあったメモ帳に書いている辺りが、衝動的に描いた感じですね。
このイメージにプラスして、映画でオテサーネクが、ガチャガチャ、ガクガクと気落ち悪く動くその動き、作品に漂う緊迫感を意識して、演奏したのが、こちら。
暗譜した自分を、ひたすら褒めてやりたいです(笑)
Chromatograph -Hommage to Švankmajer- for solo marimba
超難しかったので、私の手の指からも何度も血が出ました。私の手の状態もホラーでした。作品に食べられた感じ(笑)
難解な現代曲と感じる方もいらっしゃるかも知れません。一般に現代曲には賛否両論あることも理解していますが、今この現代を生きている才能ある若い作曲家の作品を、みがいてみがいて世に出すのは演奏家の使命でもあるし、こういった音の創造、表現の世界は、果てしなくてゾクゾクするし、その上、作曲家と対話しながら作品を作っていくなんて、とても贅沢な経験なので、30代の頃は、私も同世代の作曲家に委嘱して、たくさんの新作を演奏してました。
オテサーネクのイメージを感じながら、マリンバの木の鍵盤が食人木を表現した世界をお楽しみ下さい。理解では無く、ただ感じるのが、楽しむコツかと思います。
さて、オテサーネクは、最後、どうなったのでしょう?
民話では、最後にクワでたたき割られて、食べられた全員、無事にお腹から出てきますが、映画ではそうはいきません。
興味のある方は、覚悟して映画をご覧下さい。