今回で第20回目となる宮崎映画祭が、先週末の土曜日(5日)から始まりました。
(映画祭の公式サイトはこちらです)
一つの節目となる今回の宮崎映画祭。貴重なサイレント時代の幻の傑作をはじめとする優れた旧作から、新たな映画の息吹を感じさせてくれそうな新作まで、全部で19作品が上映されます。映画と映画祭のこれまでを回顧しつつ、さらなる未来へと繋げていこうという意図が込められているかのようなラインナップなのであります。
今回の映画祭公式パンフレット(1部300円)には、上映される19作品の紹介のほかに、今回ゲストで参加される黒沢清監督や、俳優の役所広司さん、井口奈己監督、そしてシネマ・イラストライターの三留まゆみさんからのメッセージが寄せられております(表紙のイラストは三留さんの手になるものです)。
さらには、周防正行監督や樋口真嗣監督などの、これまでの映画祭にゲストで招かれた面々からのメッセージや、全20回の上映作品とゲストの一覧まで収録されていて、まさに永久保存版といってよい充実ぶりであります。映画自体は観られないという向きは、このパンフレットだけでも押さえておいていいかもしれませんね(←って、違うだろ)。
初日の5日に観た作品は2本でした。まず最初は『皇帝と公爵』です。
『皇帝と公爵』 (2012年 フランス、ポルトガル)
監督=バレリア・サルミエント
主演=ジョン・マルコビッチ、カトリーヌ・ドヌーブ、イザベル・ユペール
1810年9月。ナポレオンが派遣したフランス軍はポルトガルを征服すべく侵攻する。しかし、途中までは成功したかに思われたフランス軍の侵攻は、知将ウェリントン将軍率いるイギリス・ポルトガル連合軍の罠にはまって頓挫する。さらにイギリス軍は、ウェリントンの戦略により要塞「トレス線」を建設し、フランス軍を誘い込んで撃破しようと準備を進めるのだった•••。
ともに同じ年に生を受け、「永遠のライバル」として戦いを重ねた皇帝ナポレオンと知将ウェリントンとの「ブサコの戦い」を背景に、戦いに巻き込まれ翻弄される人びとの姿を群像劇として描き出した歴史大作です。
2011年にこの世を去った名匠、ラウル・ルイス監督が進めていた企画を引き継いで完成させたのが、妻のバレリア・サルミエント監督です。
ナポレオンとウェリントンとの戦いの行方に影響を与えた「ブサコの戦い」を、2時間半に及ぶ壮大なスケールの大作としてまとめあげたサルミエント監督の手腕はまことに見事で、圧倒されるものがありました。
とはいえ、サルミエント監督の演出は戦闘そのものよりも、戦乱に巻き込まれた人びとが苦難や荒廃の中で生き抜いていこうとする姿を、リアリティたっぷりに描くことに徹していました。とくに、戦乱の中で傷つき、蹂躙されながらも、必死に生きようとする女性たちの生きざまは、重くて深い余韻を残しました。
一見する価値は大いにあった、正攻法の歴史大作でありました。
この日観たもう一本は、三留まゆみさんを迎えての「三留まゆみの映画塾」として上映された『太陽を盗んだ男』です。
『太陽を盗んだ男』 (1979年 日本)
監督=長谷川和彦 製作=山本又一郎
脚本=レナード・シュレイダー、長谷川和彦
音楽=井上堯之
主演=沢田研二、菅原文太、池上季実子
中学校の理科教師である城戸(沢田研二)は、東海村の原子力発電所からプルトニウムを強奪する。自宅アパートで手製の原爆を製作した城戸は、それをネタにして政府を脅迫する。城戸は交渉の相手として、丸の内警察捜査一課の山下警部(菅原文太)を指名する。かつてバスジャックに巻き込まれたとき、命がけで救出にあたった山下の姿に、自分と相通ずるものを感じていたのがその理由だった。
城戸は山下に対して「テレビのプロ野球中継を最後まで放送しろ」とか「ローリング・ストーンズの日本公演を実現させろ」などと、突拍子もない要求を突きつける。そして、「現金5億円を用意しろ」という第3の要求を受けた山下は、受け渡し現場で取り押さえるべく罠を張るのであった•••。
実は、今回の映画祭に臨む一番の目的は、本作を劇場で観るということでした。前から気になっていた作品でありながら、なかなか観ることができないでいた映画だったからです。
いやはや、これは本当にものすごく面白い映画でした!奇想天外な物語に、痛快なアクションとユーモア、ときおり垣間見えるテーマ性。そのすべてにとことん引き付けられました。
アンニュイな軽みを持った沢田研二さんと、骨太で野性味溢れる菅原文太さん、それぞれのカッコよさに魅了されました(もっとも、ラストの対決シーンにおける山下警部のタフさは、いささかやり過ぎ感がありましたが•••)。また、『西部警察』シリーズでも大活躍した「三石千尋とマイクスタントマンチーム」による、トラック飛び越えやパトカー大量横転といったド派手なカーアクションにも、目が釘付けになりました。
•••白状すると、本作を観る前に夕食かたがたビールと焼酎を引っ掛けるというバカな状態で鑑賞に臨んだのですが(汗)、観ているうちに酒の酔いなど吹っ飛んでしまい、映画の持つパワーと面白さに酔ったのでありました。
生きてるうちにこの映画を観ることができた喜びを、とことん噛み締めることができたのでありました。
終映後に始まった三留さんのトークでは、映画のプロデューサーを務めた伊地智啓さんもサプライズ登壇。もともとは村上龍さんの脚本による企画から始まったということや、山下警部役の候補は高倉健さんだったこと、スタッフがノロノロ運転して首都高速を渋滞させた上で撮影されたカーアクションのこと•••などなど、映画のウラ話をたっぷりお話になられました。日本映画に伝説を刻んだ作品のウラ側も、また伝説的な面白さに満ちていたことを知ることができました。
高校時代に出会って以来、本作は特別な作品となっているという三留さんは、「最初は面白さに夢中になるだけだったけれど、何度も観ることでいろんなテーマ性が見えてきた」とおっしゃっておられました。確かに本作は、一度だけの鑑賞で終わらせるにはもったいないくらいの映画だと思います。製作から35年近く経っても、まったく色褪せない魅力を持った本作は、わたくしにとっても特別な作品となりました。
一方で、現在の日本映画界においては、このようなエンタテインメント性とテーマ性とを併せ持った作品を生み出すことができず、なんだか「ちんまり」とした作品ばかりになっているのではないか、という問題にも話は及びました。
確かに、目下の映画製作にはさまざまな業界が関わっていることもあり、いささか冒険しにくい面があるのでしょう。ですが、『太陽を~』のように「ちんまり」した枠や制約を吹き飛ばす、壮大かつ痛快な「ホラばなし」が、もっと日本映画にも出てきてくれるといいなあ、と思うのであります。
ちなみに伊地智さん、上映中はなんとわたくしのすぐ後ろの席でご覧になっておられました。さらに、翌日のゲストとして招かれていた井口奈己監督も、やはりすぐ後ろで鑑賞しておられたという•••。
作り手と観客との距離が近い宮崎映画祭の良さを、あらためて感じた次第でありました。•••でもちょっとキンチョーもするんだけどね(笑)。
(映画祭の公式サイトはこちらです)
一つの節目となる今回の宮崎映画祭。貴重なサイレント時代の幻の傑作をはじめとする優れた旧作から、新たな映画の息吹を感じさせてくれそうな新作まで、全部で19作品が上映されます。映画と映画祭のこれまでを回顧しつつ、さらなる未来へと繋げていこうという意図が込められているかのようなラインナップなのであります。
今回の映画祭公式パンフレット(1部300円)には、上映される19作品の紹介のほかに、今回ゲストで参加される黒沢清監督や、俳優の役所広司さん、井口奈己監督、そしてシネマ・イラストライターの三留まゆみさんからのメッセージが寄せられております(表紙のイラストは三留さんの手になるものです)。
さらには、周防正行監督や樋口真嗣監督などの、これまでの映画祭にゲストで招かれた面々からのメッセージや、全20回の上映作品とゲストの一覧まで収録されていて、まさに永久保存版といってよい充実ぶりであります。映画自体は観られないという向きは、このパンフレットだけでも押さえておいていいかもしれませんね(←って、違うだろ)。
初日の5日に観た作品は2本でした。まず最初は『皇帝と公爵』です。
『皇帝と公爵』 (2012年 フランス、ポルトガル)
監督=バレリア・サルミエント
主演=ジョン・マルコビッチ、カトリーヌ・ドヌーブ、イザベル・ユペール
1810年9月。ナポレオンが派遣したフランス軍はポルトガルを征服すべく侵攻する。しかし、途中までは成功したかに思われたフランス軍の侵攻は、知将ウェリントン将軍率いるイギリス・ポルトガル連合軍の罠にはまって頓挫する。さらにイギリス軍は、ウェリントンの戦略により要塞「トレス線」を建設し、フランス軍を誘い込んで撃破しようと準備を進めるのだった•••。
ともに同じ年に生を受け、「永遠のライバル」として戦いを重ねた皇帝ナポレオンと知将ウェリントンとの「ブサコの戦い」を背景に、戦いに巻き込まれ翻弄される人びとの姿を群像劇として描き出した歴史大作です。
2011年にこの世を去った名匠、ラウル・ルイス監督が進めていた企画を引き継いで完成させたのが、妻のバレリア・サルミエント監督です。
ナポレオンとウェリントンとの戦いの行方に影響を与えた「ブサコの戦い」を、2時間半に及ぶ壮大なスケールの大作としてまとめあげたサルミエント監督の手腕はまことに見事で、圧倒されるものがありました。
とはいえ、サルミエント監督の演出は戦闘そのものよりも、戦乱に巻き込まれた人びとが苦難や荒廃の中で生き抜いていこうとする姿を、リアリティたっぷりに描くことに徹していました。とくに、戦乱の中で傷つき、蹂躙されながらも、必死に生きようとする女性たちの生きざまは、重くて深い余韻を残しました。
一見する価値は大いにあった、正攻法の歴史大作でありました。
この日観たもう一本は、三留まゆみさんを迎えての「三留まゆみの映画塾」として上映された『太陽を盗んだ男』です。
『太陽を盗んだ男』 (1979年 日本)
監督=長谷川和彦 製作=山本又一郎
脚本=レナード・シュレイダー、長谷川和彦
音楽=井上堯之
主演=沢田研二、菅原文太、池上季実子
中学校の理科教師である城戸(沢田研二)は、東海村の原子力発電所からプルトニウムを強奪する。自宅アパートで手製の原爆を製作した城戸は、それをネタにして政府を脅迫する。城戸は交渉の相手として、丸の内警察捜査一課の山下警部(菅原文太)を指名する。かつてバスジャックに巻き込まれたとき、命がけで救出にあたった山下の姿に、自分と相通ずるものを感じていたのがその理由だった。
城戸は山下に対して「テレビのプロ野球中継を最後まで放送しろ」とか「ローリング・ストーンズの日本公演を実現させろ」などと、突拍子もない要求を突きつける。そして、「現金5億円を用意しろ」という第3の要求を受けた山下は、受け渡し現場で取り押さえるべく罠を張るのであった•••。
実は、今回の映画祭に臨む一番の目的は、本作を劇場で観るということでした。前から気になっていた作品でありながら、なかなか観ることができないでいた映画だったからです。
いやはや、これは本当にものすごく面白い映画でした!奇想天外な物語に、痛快なアクションとユーモア、ときおり垣間見えるテーマ性。そのすべてにとことん引き付けられました。
アンニュイな軽みを持った沢田研二さんと、骨太で野性味溢れる菅原文太さん、それぞれのカッコよさに魅了されました(もっとも、ラストの対決シーンにおける山下警部のタフさは、いささかやり過ぎ感がありましたが•••)。また、『西部警察』シリーズでも大活躍した「三石千尋とマイクスタントマンチーム」による、トラック飛び越えやパトカー大量横転といったド派手なカーアクションにも、目が釘付けになりました。
•••白状すると、本作を観る前に夕食かたがたビールと焼酎を引っ掛けるというバカな状態で鑑賞に臨んだのですが(汗)、観ているうちに酒の酔いなど吹っ飛んでしまい、映画の持つパワーと面白さに酔ったのでありました。
生きてるうちにこの映画を観ることができた喜びを、とことん噛み締めることができたのでありました。
終映後に始まった三留さんのトークでは、映画のプロデューサーを務めた伊地智啓さんもサプライズ登壇。もともとは村上龍さんの脚本による企画から始まったということや、山下警部役の候補は高倉健さんだったこと、スタッフがノロノロ運転して首都高速を渋滞させた上で撮影されたカーアクションのこと•••などなど、映画のウラ話をたっぷりお話になられました。日本映画に伝説を刻んだ作品のウラ側も、また伝説的な面白さに満ちていたことを知ることができました。
高校時代に出会って以来、本作は特別な作品となっているという三留さんは、「最初は面白さに夢中になるだけだったけれど、何度も観ることでいろんなテーマ性が見えてきた」とおっしゃっておられました。確かに本作は、一度だけの鑑賞で終わらせるにはもったいないくらいの映画だと思います。製作から35年近く経っても、まったく色褪せない魅力を持った本作は、わたくしにとっても特別な作品となりました。
一方で、現在の日本映画界においては、このようなエンタテインメント性とテーマ性とを併せ持った作品を生み出すことができず、なんだか「ちんまり」とした作品ばかりになっているのではないか、という問題にも話は及びました。
確かに、目下の映画製作にはさまざまな業界が関わっていることもあり、いささか冒険しにくい面があるのでしょう。ですが、『太陽を~』のように「ちんまり」した枠や制約を吹き飛ばす、壮大かつ痛快な「ホラばなし」が、もっと日本映画にも出てきてくれるといいなあ、と思うのであります。
ちなみに伊地智さん、上映中はなんとわたくしのすぐ後ろの席でご覧になっておられました。さらに、翌日のゲストとして招かれていた井口奈己監督も、やはりすぐ後ろで鑑賞しておられたという•••。
作り手と観客との距離が近い宮崎映画祭の良さを、あらためて感じた次第でありました。•••でもちょっとキンチョーもするんだけどね(笑)。