宮崎映画祭も大詰めとなった7月12日(土曜日)。会場を、メイン会場である宮崎キネマ館より遥かにキャパシティの大きな、宮崎市民プラザ・オルブライトホールに移して、2作品が上映されました。
最初に上映された『日本のいちばん長い日』(1967年、岡本喜八監督)は、昼まで仕事だったために鑑賞できませんでした。
が、その次に上映された黒沢清監督の『CURE』は、バッチリと押さえることができました。なんたってこの上映には、宮崎映画祭4回目のご登場となる黒沢監督に加え、主演俳優である役所広司さんがゲストとして招かれ、上映後にトークショーが行われるという、今回の映画祭最大といってもいいビッグなイベントが組まれていたのですから。
会場には予想通り多くの観客が詰めかけていて、今回の映画祭最高の盛り上がりとなりました。映画祭期間中に接近してきた台風8号の動き次第では、お二方が来県できるかどうかが心配されただけに、無事にお二方が会場入りすることができて嬉しい限りでした。
上映前、黒沢監督と役所さんがご登壇しての舞台挨拶がありました。
黒沢監督は「初めてメジャーな製作体制のもとで作られ、さらに初めて海外で紹介されるきっかけを与えられた、自分のキャリアの中でも特別なこの作品を上映してもらえるのはとても幸せです」と語りました。そして役所さんは「黒沢監督との出会いの作品で、宮崎映画祭に読んでいただいたことを、大変誇らしく思います。•••ちょっと怖い映画ですが」と語り、観客の笑いを誘いました。
(画像はDVDのジャケット写真を拝借させていただきました)
『CURE』 (1997年 日本)
監督・脚本=黒沢清
音楽=ゲイリー芦屋
主演=役所広司、萩原聖人、うじきつよし、中川安奈
高部刑事が属する警察署の管内で、立て続けに猟奇的な殺人事件が発生。それらの事件の被害者は、すべて首から胸にかけて刃物で「X」字型に切り裂かれていた。そして、逮捕された犯人はいずれも殺したこと自体は覚えていながらも、なぜ殺したのかについては「わからない」「覚えていない」と繰り返すばかりであった。高部は謎めいた事件に振り回された上、精神を病んでいる妻との生活も重なり疲弊していく。
やがて高部は、すべての事件の背後に存在している一人の男に辿り着く。間宮というその青年には記憶障害があり、相手に対して謎めいた問いかけを続けるのだった。そんな間宮の態度に翻弄され苛立つ高部であったが、いつしかその心には変化が生じていくのであった•••。
「怖い映画ですが•••」という上映前の役所さんのお言葉通り、最初から最後まで異様な緊迫感を保って突っ走っていくサイコスリラーでした。殺害された被害者の描写にもショッキングなものがあり(三池崇史監督の作品など、多数の作品で特殊メイクを手がけている松井祐一さんの仕事も迫力がありました)、観客からは思わず低く悲鳴が上がったりしていました。
しかし、ショッキングな物語を通して、何気なく日常を生きているはずの人間たちに潜んでいる「心の闇」が引きずり出されていく展開には、ひたすら唸らされました。
間宮と関わっていく中で、精神を変容させていく高部を演じた役所さんの演技は時に鬼気迫るものも感じさせ、まさに恐ろしいくらい圧巻でした。また、謎めいた間宮を演じた萩原聖人さんも実に見事でした。
ショッキングな場面にとどまらず、ある種の美しさを喚起させるカットも随所に見られました。とりわけ、吹きすさぶ風の中に建つ、間宮が収容された病院のカットは印象に残りました。
映画祭の公式パンフレットによれば、本作は黒沢監督と役所さんの双方が多忙を極めていた時期の産物であったとのことですが、そのような時期にこれほど密度の高い作品が生み出されていたということに、ただただ感嘆するのみです。
上映後に開催されたトークショー。かなり久しぶりに本作を見直したという黒沢監督は、開口一番「いや~、気持ち悪い映画でしたね~」とコメントして、張り詰めていた観客の気分をほぐして(?)くださいました。
本作への出演を決めた経緯について役所さんは、渡された脚本を一読したときに「全体の雰囲気が良くて、この映画を観てみたいなあ、と」思い、出演を決めたのだとか。
本作で映像とともに強烈に印象に残ったのが「音」。低く唸り続ける波や風、洗濯物が入っていない状態でゴトンゴトンと回り続ける洗濯機などの「音」が、作品の異様な緊張感を増すようでまことに効果的でした。
黒沢監督はこれらの「音」について、「特に異常な音を入れているつもりではないが、映像に映っていない『向こう側』を想像できるように、現実にしていてもおかしくないような音を入れた」と語りました。また役所さんはそれを受けて、「そういったすべての音が消える瞬間がとてもドラマティックだ」とお話しになりました。
初めて目の前で拝見した役所さんはとても渋みがあってカッコ良く、優しそうな雰囲気を持ったナイスミドルでした。質問に対して、じっくり言葉を選びつつお答えになる(あのお声で!)お姿が、実にサマになっておりました。
そして、観客からの質疑応答のときには、質問した方のほうにしっかりと向き合って、笑顔をたたえながらお答えになられていて、誠実なお人柄が窺えました。
トークショー終了のとき、役所さんは「機会があれば、また宮崎に来ます」とおっしゃってくださいました。それが実現して、また目の前で拝見できる日が来ることを願いたいと思います。
そして黒沢監督。すでに日本はもちろん世界の映画界からも注目されるような大きな存在でありながらも、一地方の映画界を引き立ててくださることに、あらためて胸熱となったのでありました。
プログラム終了後、お二方のご厚情に対する感謝感激とともに、宮崎名物地鶏の炭火焼を肴に飲んだお酒は、ことのほか美味しゅうございました•••。
ちなみに、この写真ではわからないとは思いますが•••冷奴の豆腐は「X」字型に切れ目を入れて、しょうゆを染み込ませてから頂きました(笑)。
最初に上映された『日本のいちばん長い日』(1967年、岡本喜八監督)は、昼まで仕事だったために鑑賞できませんでした。
が、その次に上映された黒沢清監督の『CURE』は、バッチリと押さえることができました。なんたってこの上映には、宮崎映画祭4回目のご登場となる黒沢監督に加え、主演俳優である役所広司さんがゲストとして招かれ、上映後にトークショーが行われるという、今回の映画祭最大といってもいいビッグなイベントが組まれていたのですから。
会場には予想通り多くの観客が詰めかけていて、今回の映画祭最高の盛り上がりとなりました。映画祭期間中に接近してきた台風8号の動き次第では、お二方が来県できるかどうかが心配されただけに、無事にお二方が会場入りすることができて嬉しい限りでした。
上映前、黒沢監督と役所さんがご登壇しての舞台挨拶がありました。
黒沢監督は「初めてメジャーな製作体制のもとで作られ、さらに初めて海外で紹介されるきっかけを与えられた、自分のキャリアの中でも特別なこの作品を上映してもらえるのはとても幸せです」と語りました。そして役所さんは「黒沢監督との出会いの作品で、宮崎映画祭に読んでいただいたことを、大変誇らしく思います。•••ちょっと怖い映画ですが」と語り、観客の笑いを誘いました。
(画像はDVDのジャケット写真を拝借させていただきました)
『CURE』 (1997年 日本)
監督・脚本=黒沢清
音楽=ゲイリー芦屋
主演=役所広司、萩原聖人、うじきつよし、中川安奈
高部刑事が属する警察署の管内で、立て続けに猟奇的な殺人事件が発生。それらの事件の被害者は、すべて首から胸にかけて刃物で「X」字型に切り裂かれていた。そして、逮捕された犯人はいずれも殺したこと自体は覚えていながらも、なぜ殺したのかについては「わからない」「覚えていない」と繰り返すばかりであった。高部は謎めいた事件に振り回された上、精神を病んでいる妻との生活も重なり疲弊していく。
やがて高部は、すべての事件の背後に存在している一人の男に辿り着く。間宮というその青年には記憶障害があり、相手に対して謎めいた問いかけを続けるのだった。そんな間宮の態度に翻弄され苛立つ高部であったが、いつしかその心には変化が生じていくのであった•••。
「怖い映画ですが•••」という上映前の役所さんのお言葉通り、最初から最後まで異様な緊迫感を保って突っ走っていくサイコスリラーでした。殺害された被害者の描写にもショッキングなものがあり(三池崇史監督の作品など、多数の作品で特殊メイクを手がけている松井祐一さんの仕事も迫力がありました)、観客からは思わず低く悲鳴が上がったりしていました。
しかし、ショッキングな物語を通して、何気なく日常を生きているはずの人間たちに潜んでいる「心の闇」が引きずり出されていく展開には、ひたすら唸らされました。
間宮と関わっていく中で、精神を変容させていく高部を演じた役所さんの演技は時に鬼気迫るものも感じさせ、まさに恐ろしいくらい圧巻でした。また、謎めいた間宮を演じた萩原聖人さんも実に見事でした。
ショッキングな場面にとどまらず、ある種の美しさを喚起させるカットも随所に見られました。とりわけ、吹きすさぶ風の中に建つ、間宮が収容された病院のカットは印象に残りました。
映画祭の公式パンフレットによれば、本作は黒沢監督と役所さんの双方が多忙を極めていた時期の産物であったとのことですが、そのような時期にこれほど密度の高い作品が生み出されていたということに、ただただ感嘆するのみです。
上映後に開催されたトークショー。かなり久しぶりに本作を見直したという黒沢監督は、開口一番「いや~、気持ち悪い映画でしたね~」とコメントして、張り詰めていた観客の気分をほぐして(?)くださいました。
本作への出演を決めた経緯について役所さんは、渡された脚本を一読したときに「全体の雰囲気が良くて、この映画を観てみたいなあ、と」思い、出演を決めたのだとか。
本作で映像とともに強烈に印象に残ったのが「音」。低く唸り続ける波や風、洗濯物が入っていない状態でゴトンゴトンと回り続ける洗濯機などの「音」が、作品の異様な緊張感を増すようでまことに効果的でした。
黒沢監督はこれらの「音」について、「特に異常な音を入れているつもりではないが、映像に映っていない『向こう側』を想像できるように、現実にしていてもおかしくないような音を入れた」と語りました。また役所さんはそれを受けて、「そういったすべての音が消える瞬間がとてもドラマティックだ」とお話しになりました。
初めて目の前で拝見した役所さんはとても渋みがあってカッコ良く、優しそうな雰囲気を持ったナイスミドルでした。質問に対して、じっくり言葉を選びつつお答えになる(あのお声で!)お姿が、実にサマになっておりました。
そして、観客からの質疑応答のときには、質問した方のほうにしっかりと向き合って、笑顔をたたえながらお答えになられていて、誠実なお人柄が窺えました。
トークショー終了のとき、役所さんは「機会があれば、また宮崎に来ます」とおっしゃってくださいました。それが実現して、また目の前で拝見できる日が来ることを願いたいと思います。
そして黒沢監督。すでに日本はもちろん世界の映画界からも注目されるような大きな存在でありながらも、一地方の映画界を引き立ててくださることに、あらためて胸熱となったのでありました。
プログラム終了後、お二方のご厚情に対する感謝感激とともに、宮崎名物地鶏の炭火焼を肴に飲んだお酒は、ことのほか美味しゅうございました•••。
ちなみに、この写真ではわからないとは思いますが•••冷奴の豆腐は「X」字型に切れ目を入れて、しょうゆを染み込ませてから頂きました(笑)。