読んで、観て、呑む。 ~閑古堂雑記~

宮崎の某書店に勤める閑古堂が、本と雑誌、映画やドキュメンタリー、お酒の話などを、つらつらと綴ってまいります。

「生賴範義展 THE ILLUSTRATOR」を観に行く

2014-02-16 21:41:55 | 宮崎のお噂
『スター・ウォーズ』やゴジラシリーズなどの映画ポスターや、小松左京さんや平井和正さんの本の装画など、これまでに数千点もの作品を手がけ、海外でも広く認知されている画家、生賴範義さん。
緻密にして奔放なイマジネーション溢れる作風で、さまざまなSF映画やSF小説、雑誌の装画を数多く手がけた生賴さんは、特にSF好きにとっては雲の上のような存在です。そんな雲の上のような存在の生賴さん、なんと宮崎市の在住(出身は兵庫県)なのであります。
宮崎の地から、日本はおろか世界を驚嘆させた作品を生み出してきた巨匠の、50年間にわたる画業を集大成した展覧会「生賴範義展 THE ILLUSTRATOR」が、宮崎市内にある「みやざきアートセンター」にて今月8日から開催されております。昨日(15日)、わたくしもじっくり鑑賞してまいりました。

わたくしにとって、生賴さんといえばなんといっても、ゴジラシリーズのポスターアート。さまざまな画家が描いたゴジラの中でも、生物感と荒々しさに満ちた生賴さん描くところのゴジラが特に好きなのです。なので、展示スペースがゴジラシリーズのポスター原画から始まっていたのには大いに興奮いたしました(以下、画像は写真撮影可のスペースにて撮ったものです)。

新宿の超高層ビル群の向こうで仁王立ちになり咆哮するゴジラを描いた、1984年版『ゴジラ』のポスターアートは、当時中学生だったわたくしをワクワクさせてくれました。その原画を目の前にすることができて、ゾクゾクするほどの興奮と感激を覚えました。そして、その後の平成ゴジラシリーズや、ゴジラ関係の書籍や雑誌に描かれた作品の一つ一つに、ずっとゾクゾクさせられっぱなしでありました。
ポスターでは、メインヴィジュアルであるゴジラや他の怪獣たちに目が行きがちだったのですが、原画をじっくり鑑賞すると、あまり目立ってはいなかった部分(建造物やメカなど)も細かく描かれていたことに気づかされ、その仕事ぶりにあらためて魅了されました。

次に魅了されたのが、小松左京さんと平井和正さんの本の装画を展示したスペースでした。

本の装画は、想像していた以上に小さな画面でありながら、その中によくぞここまで、というほど緻密な描き込みがなされていました。そして、日本人ばなれしている奔放なイマジネーションによって構築されたSF世界に目を奪われました。小松さんと平井さん、それぞれから絶大なる信頼を得ていたというのも納得でありました。このスペースも、一つ一つを鑑賞するのにえらく時間がかかり、気づけばゴジラと小松・平井作品の装画のスペースだけで、鑑賞時間の半分足らずを使っておりました。

生賴さんの名声を一気に高めたのが、『スター・ウォーズ 帝国の逆襲』の国際版ポスターの仕事です。日本の出版物に掲載されていた生賴さんの絵に感嘆したジョージ・ルーカスが、映画会社を通して依頼したとか。それらの原画にも、ワクワクしていた当時の記憶を思い起こすことができました。
そして、『日本沈没』(2006年版。ちなみに、1973年の映画化のときも、生賴さんがポスターを手がけています)や『メテオ』『暴走機関車』などのポスター画や、『復活の日』のイメージイラストからは、映画の世界観を広げ、時には凌駕するような仕事ぶりがひしひしと伝わってきました。

本の装画や挿絵、新聞広告のためのイラストに見られる、恐ろしいほどの緻密さで描き出された線描画や点描画をまとめて鑑賞することができたのも、この展覧会の大きな収穫であります。

1970年、吉川英治『宮本武蔵』のために描かれた装画と挿絵は、細かな線をびっしりと重ねることによって、人物や情景を浮かび上がらせたもの。また、『人物現代史』(大森実著)の装画として描かれた、ヒトラーや毛沢東、ケネディなどの肖像画は、執拗なまでの点描によって、人物の内面にまで迫るようなドラマティックなものを感じさせました。そして、大平正芳や野村克也などを描いた雑誌『月刊現代』の表紙絵は、言われなければ絵とはわからないくらいのリアルさ。たばこ「HOPE」の広告「HOPE MY WAY」シリーズもまた、写真としか思えないような仕上がりぶりでした。
写真を超えたともいえるこれらの肖像画には、観覧していた方々からしきりに、感嘆の唸りやため息が聞こえてきました。これらの作品を仕上げるのに、どれだけの時間と手間がかかっていたのか。余人には容易に窺い知れないものがあります。

生賴さんといえば想像力豊かなSF世界のイメージが強いのですが、雑誌『丸』や戦記本、プラモデルの箱絵のために描かれた、軍艦や戦闘機を描いた戦記イラストも、生賴さんの大きな仕事の一つです。

華々しさや勇ましさがほとんど感じられない、重々しく暗いタッチで描かれた戦争・戦記画の数々。それは、子どもの頃に兵庫県明石市で大空襲を体験し、以来反戦の意識を持ち続けているという、生賴さんの戦争観が反映されたものなのかもしれません。が、軍艦の細かなディテールに至るまで調べ上げられた描写からは、メカに対する飽くなき興味や探究心も、同時にひしひしと伝わってきました。

約2時間半にわたった鑑賞。重厚・骨太にして緻密・繊細な生賴ワールドに大いに興奮し、堪能いたしました。これは本当に「奇跡」に満ちた体験でありました。
そして、この宮崎の地で、日本はおろか世界を驚嘆させたイマジネーション豊かな作品群が生み出されていたということに、あらためて感慨深いものがありました。
正直なところ、宮崎と大都市圏とでは、情報や住んでいる人たちの文化的な意識の面で、少なからずギャップを感じるのは否めません。しかし、そういう地方においても、人を得ることで日本だけでなく、世界に通じる発信ができるということは、示唆するものが多くあるように思います。
2011年に脳梗塞で倒れて以降、療養生活が続き、創作からは遠ざかっている生賴さん。いつの日か回復を遂げ、また創作の現場に戻る「奇跡」を、心から願いたいと思います。
展覧会は来月(3月)の23日まで開催されます。会期中にもう一度、観に行こうかなあと考えております。

事前に数量限定の前売り券を買っておいたおかげで、特製カレンダーを手に入れることができました。徳間書店から発行されていた雑誌『SFアドベンチャー』の表紙を飾っていた、歴史上・伝説上の女性たちとSF世界のイメージを重ね合わせた、惚れ惚れするようなミューズたちのイラストから抜粋して作られたカレンダーであります。

今年1年、殺風景なオノレの部屋を彩りあるものにしてくれることでありましょう。

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