読んで、観て、呑む。 ~閑古堂雑記~

宮崎の某書店に勤める閑古堂が、本と雑誌、映画やドキュメンタリー、お酒の話などを、つらつらと綴ってまいります。

【わしだって絵本を読む】小さいけどしたたかでしぶとい、街のネズミたちに励まされる『月刊たくさんのふしぎ』7月号「街のネズミ」

2020-06-07 20:15:00 | 雑誌のお噂


『月刊たくさんのふしぎ』2020年7月号「街のネズミ」
原啓義 文・写真、福音館書店、2020年


福音館書店が出している絵本雑誌のひとつである『月刊たくさんのふしぎ』。その最新号として刊行された「街のネズミ」は、人間たちが活動する都会の片隅をすみかとしているネズミたち(おもにドブネズミ)の生態を活写した写真絵本です。
著者である原啓義さんは、巻末の紹介文によれば「会社員の傍ら、動物好きが高じて写真家として活動」しているという方だそうで、これまでに2回、街ネズミの写真展も開催しておられるとのこと。警戒心の強さから、めったに人間の前には姿を現さない「われわれのそばにいながら、どこか遠い存在」であるネズミたちの姿を、実にいきいきと捉えている本書の写真には、もう唸らされっぱなしでありました。

どちらかといえば夜行性というイメージのあった街ネズミたちですが、外が明るい時間帯にもさまざまな場所で活動しているようで、本書の写真の多くも日中に撮影されています。
エサを求めてゴミ箱のへりにぶら下がっていたり、すみかに運ぶつもりなのか大きめのサンマの頭を咥えていたり、2匹が後ろ足で立ち上がって小競り合いを演じていたり・・・。街のネズミたちはこれほどまで、いきいきと明るい日中にも活動しているのか、と驚かされました。

衛生上の理由に加え、電気のケーブルをかじったりすることで、「害獣」として自分たちを駆除の対象とするわれわれ人間に対して、ネズミたちは最大限に警戒をします。人間のことをいつも観察し、視線が自分たちの方に向いているときには動き出さず、別の方に注意が向いたことを確認してサッと移動するのだとか。
ネズミたちが警戒すべき相手はほかにもいます。エサ場をめぐって争うハトや、ネズミを襲って捕食するカラス、そしてネコ。本書には、エサを漁っているときにカラスにしっぽを突かれて、びっくりしてピョーンと飛び跳ねているネズミの写真もあって、よくぞこんな瞬間を捉えたものだと感心させられます。そして、2匹のネコに挟まれて窮地に陥っていたり、道路の真ん中でカラスの餌食となっている、哀れなネズミの姿も写し出されています。
とはいえ、ネズミもやられてばかりいるわけではありません。まだ狩りが上手ではない若いネコやハトに対して、強気な態度で威嚇しているネズミの姿も捉えられていて、ちょっと痛快な気分にさせてくれます。

「害獣」あつかいされて嫌われものとなっている街のネズミたちですが、狭い隙間から頭だけをちょこんと出して外を窺う姿や、両手で花を抱えながら食べている姿などは実に愛嬌があります。そういう姿を見ていると、「ああコイツらはコイツらなりに一生懸命、ガンバって生きているんだなあ・・・」といじましくなってきます。
思えば、街の中でさまざまな困難や難題に直面しながら日々を生きなければならないという点においては、街のネズミたちもわれわれ人間も同じではないでしょうか。そう思うと、「小さくてもしたたかで、しぶとい」街のネズミたちの姿に、なんだか励まされるような気がしてまいります。
そばにいながら遠い存在である隣人、街のネズミたちに対する見方が変わる写真絵本であります。



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