NHKスペシャル『沢木耕太郎 推理ドキュメント 運命の一枚 “戦場”写真 最大の謎に挑む』
初回放送=2月3日(日)午後9時~9時49分
今もなお、伝説的な存在として語り継がれる戦場カメラマン、ロバート・キャパ。
その存在を一躍世界に知らしめたのが、スペイン内戦(1936~39)のさなかに撮られた「崩れ落ちる兵士」と呼ばれる一枚の写真。銃弾に体を撃ち抜かれる「死の瞬間」を奇跡的に捉えた写真として、彼の代表作ともなっています。
しかし、その写真にはネガもキャプションも残っておらず、真贋論争も絶えなかった謎多き一枚でもありました。
番組は、長年キャパを追い続けてきた作家の沢木耕太郎さんによる真相発掘の旅に同行しながら、CGを駆使した解析により、「崩れ落ちる兵士」に秘められた謎を一つ一つ解き明かしていきます。
(これから番組をご覧になるという方は、どうぞ以下の文章は視聴後にお読みいただければ幸いです)
沢木さんは、キャパが撮影に赴いた南スペイン、アンダルシアを訪ね、当時の戦いを知る人びとや戦史研究家などから話を聞きます。
さらに、「崩れ落ちる兵士」と同じ場所で撮影された43枚の写真を解析、当時の地形や状況をCGで再現し、何が起こっていたのかを明らかにしていきました。
残されている写真のいくつかには、戦場にしては不自然なところが見受けられました。敵に丸見えになるかのような位置に並んでいる兵士たち。のちに撃たれて倒れることになる兵士の表情には満面の笑みが。さらに、撃つことができないようになっていた銃がいくつも写っていたのです。
そしてついに沢木さんは、現地の人から決定的ともいえる証言を得ます。
「崩れ落ちる兵士」が初めて雑誌に掲載されたのが1936年9月23日。しかし、それ以前に現地では戦闘はなかった、というのです。
一連の写真は、実際の戦闘ではなく、演習を撮影したものだったのです。そして、あの「崩れ落ちる兵士」は撃たれてもいなければ死んでもいなかった、と•••。
当時22歳のキャパにとって、初めての戦争取材となったスペイン内戦。そこで捉えた「決定的瞬間」の写真はキャパを一気に表舞台へと引き上げ、ついには世界的にも有名な写真雑誌『LIFE』にも掲載されます。
生前のキャパは、「崩れ落ちる兵士」について一切語らなかったといいます。一人歩きしていった「崩れ落ちる兵士」は、既にキャパが手をつけられるものではなくなってしまっていました。
しかし、これですべての謎が解き明かされたわけではありませんでした。「崩れ落ちる兵士」と43枚の写真を解析する中で見えてきたのは、キャパが短い生涯にわたって背負い続けていたであろう、重い「十字架」だったのです•••。
話題になった『ヤノマミ 奥アマゾン 原初の森に生きる』(2009年)を手がけた国分拓ディレクターによる本作。とにかく圧倒的な面白さでありました。
「崩れ落ちる兵士」とキャパをめぐる謎の数々が、残された写真の1つ1つから薄紙を剥ぐように明らかになっていく過程は、まことにスリリングでありました。
そこから浮かび上がってきたのは、キャパが抱えこまざるを得なかった、「戦場カメラマン」としての「業」のようなものでした。
番組の終盤に、沢木さんが語ったことばが印象に残りました。
「いい写真が撮れようが撮れまいが関係なかったのかもしれない。誰に対してではなく、自分に対して」
しかし、ここで解き明かされた「真実」を知ってもなお、キャパという戦場カメラマンが残した仕事の価値は、おそらく変わることはないでしょうし、わたくし自身、もっとキャパのことを知りたくなってきました。
今回の取材で明らかにされたことは、今月17日に刊行予定の沢木さんの著書『キャパの十字架』(文藝春秋)にも記されているようです。この本もぜひ読んでみたいと思います。
そして、まだ未読であったキャパの自伝『ちょっとピンぼけ』(ダヴィッド社、文春文庫)も、併せて読んでみようかな、と。
できれば深夜帯だけではなく、観やすい時間帯でも再放送を熱望したい力作でありました。
初回放送=2月3日(日)午後9時~9時49分
今もなお、伝説的な存在として語り継がれる戦場カメラマン、ロバート・キャパ。
その存在を一躍世界に知らしめたのが、スペイン内戦(1936~39)のさなかに撮られた「崩れ落ちる兵士」と呼ばれる一枚の写真。銃弾に体を撃ち抜かれる「死の瞬間」を奇跡的に捉えた写真として、彼の代表作ともなっています。
しかし、その写真にはネガもキャプションも残っておらず、真贋論争も絶えなかった謎多き一枚でもありました。
番組は、長年キャパを追い続けてきた作家の沢木耕太郎さんによる真相発掘の旅に同行しながら、CGを駆使した解析により、「崩れ落ちる兵士」に秘められた謎を一つ一つ解き明かしていきます。
(これから番組をご覧になるという方は、どうぞ以下の文章は視聴後にお読みいただければ幸いです)
沢木さんは、キャパが撮影に赴いた南スペイン、アンダルシアを訪ね、当時の戦いを知る人びとや戦史研究家などから話を聞きます。
さらに、「崩れ落ちる兵士」と同じ場所で撮影された43枚の写真を解析、当時の地形や状況をCGで再現し、何が起こっていたのかを明らかにしていきました。
残されている写真のいくつかには、戦場にしては不自然なところが見受けられました。敵に丸見えになるかのような位置に並んでいる兵士たち。のちに撃たれて倒れることになる兵士の表情には満面の笑みが。さらに、撃つことができないようになっていた銃がいくつも写っていたのです。
そしてついに沢木さんは、現地の人から決定的ともいえる証言を得ます。
「崩れ落ちる兵士」が初めて雑誌に掲載されたのが1936年9月23日。しかし、それ以前に現地では戦闘はなかった、というのです。
一連の写真は、実際の戦闘ではなく、演習を撮影したものだったのです。そして、あの「崩れ落ちる兵士」は撃たれてもいなければ死んでもいなかった、と•••。
当時22歳のキャパにとって、初めての戦争取材となったスペイン内戦。そこで捉えた「決定的瞬間」の写真はキャパを一気に表舞台へと引き上げ、ついには世界的にも有名な写真雑誌『LIFE』にも掲載されます。
生前のキャパは、「崩れ落ちる兵士」について一切語らなかったといいます。一人歩きしていった「崩れ落ちる兵士」は、既にキャパが手をつけられるものではなくなってしまっていました。
しかし、これですべての謎が解き明かされたわけではありませんでした。「崩れ落ちる兵士」と43枚の写真を解析する中で見えてきたのは、キャパが短い生涯にわたって背負い続けていたであろう、重い「十字架」だったのです•••。
話題になった『ヤノマミ 奥アマゾン 原初の森に生きる』(2009年)を手がけた国分拓ディレクターによる本作。とにかく圧倒的な面白さでありました。
「崩れ落ちる兵士」とキャパをめぐる謎の数々が、残された写真の1つ1つから薄紙を剥ぐように明らかになっていく過程は、まことにスリリングでありました。
そこから浮かび上がってきたのは、キャパが抱えこまざるを得なかった、「戦場カメラマン」としての「業」のようなものでした。
番組の終盤に、沢木さんが語ったことばが印象に残りました。
「いい写真が撮れようが撮れまいが関係なかったのかもしれない。誰に対してではなく、自分に対して」
しかし、ここで解き明かされた「真実」を知ってもなお、キャパという戦場カメラマンが残した仕事の価値は、おそらく変わることはないでしょうし、わたくし自身、もっとキャパのことを知りたくなってきました。
今回の取材で明らかにされたことは、今月17日に刊行予定の沢木さんの著書『キャパの十字架』(文藝春秋)にも記されているようです。この本もぜひ読んでみたいと思います。
そして、まだ未読であったキャパの自伝『ちょっとピンぼけ』(ダヴィッド社、文春文庫)も、併せて読んでみようかな、と。
できれば深夜帯だけではなく、観やすい時間帯でも再放送を熱望したい力作でありました。
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