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【閑古堂の気まぐれ名画座】今もなお輝きを失わない、大林宣彦監督の『時をかける少女』

2020-04-12 21:54:00 | 映画のお噂


『時をかける少女』(1983年、日本)
監督=大林宣彦 製作=角川春樹 脚本=剣持亘 原作=筒井康隆 撮影監督=阪本善尚 音楽監督=松任谷正隆
出演=原田知世、高柳良一、尾美としのり、津田ゆかり、岸部一徳、根岸季衣
DVD発売・販売元=KADOKAWA


わたしと同い年のいとこ(男)は小学6年から中学にかけて、薬師丸ひろ子さんの大ファンでした。1981年に公開され大ヒットした角川映画『セーラー服と機関銃』を観て、すっかり薬師丸さんの魅力に取り憑かれたのです。映画のキメのセリフ「カイ・カン・・・」は、わがいとこの胸をも撃ち抜いた、というわけであります。それからというもの、いとこはブロマイドはもちろん、下敷きや筆箱といった文具類まで薬師丸さんの写真入り一色という入れ込みようでした。
その2年後、大学進学で休業していた薬師丸さんの復帰作となった『探偵物語』が公開されたときにも、いとこは勇んで観に出かけました。その併映作だったのが、筒井康隆さんのジュブナイルSFを大林宣彦監督が映画化した『時をかける少女』でした。角川映画のニューヒロインとして売り出された、原田知世さんの主演第1作です。
その二本立てを観たいとこは、いつの間にか薬師丸ひろ子ファンから原田知世ファンとなって帰ってまいりました。彼が持っていた文具類も知世さんの写真入りのものに一変し、わたしはその変わりように驚き呆れたものでありました。
しかし、のちにテレビで放送された『時をかける少女』を観て、そんないとこの気持ちがよくわかるように思いました。それくらい、この作品の知世さんは最初から最後まで、キラキラとした魅力に溢れておりました。知世さんの魅力を引き出し、高める原動力となったものこそ、大林監督がかけた映画の魔法でした。

先週4月10日、肺がんにより82歳で逝去された大林監督を偲び、DVDで久しぶりに観た『時をかける少女』。製作から37年が経っているのですが、映画と知世さんが持つキラキラした輝きは、まったく色褪せておりませんでした。
放課後の理科の実験室で、ラベンダーの香りがする白い煙を嗅いだことがきっかけとなり、タイムトラベルとテレポーテーションとが一緒になった「タイムリープ」という能力を持ってしまった少女・和子の戸惑い。高柳良一さん演じる、ちょっとミステリアスな同級生・深町への想い・・・。その時々の気持ちの揺れを、知世さんは可愛らしさと凛とした透明感で表現しています。
それを引き立てているのが、大林監督の故郷でもある広島県尾道市の風景と町並みです。狭い路地や石段が生活感を醸し出していて、なんとも情感にあふれています。実のところ、ラブストーリー的な展開やお話が苦手なわたしですが、どこか懐かしくホッとするような佇まいを見せる尾道の町並みが、甘酸っぱくてキュンキュンするような気持ちを大いに掻き立て、高めてくれているように思いました。
その一方で、タイムリープの場面で使われている、大林監督ならではの大胆な合成も見逃せません。CG全盛の現在の目からすれば素朴な技術ではありますが、あらためて観ると思いのほか、違和感なく受け入れることができました。これもまた、大林監督の映画の魔法ゆえ、でありましょう。

共演陣も魅力的です。本作を含めた大林監督の「尾道三部作」すべて(ほかの作品は『転校生』と『さびしんぼう』)に出演している尾美としのりさんは、一見軽くていい加減そうに見えながらも、家業を継いでいく決心を固める醤油屋の息子・悟郎役を好演しています。また、和子が通う高校の担任を演じる岸部一徳さんは、その飄々とした存在感で大いに楽しませてくれます(恋仲である女教師役の根岸季衣さんとの掛け合いは最高でした)。
本作でなによりもお気に入りなのが、知世さんが映画の舞台となったさまざまな場所で、主題歌の「時をかける少女」を歌うエンドクレジット。ほかの登場人物たちも一緒に歌っていたりしていて、ここは何回繰り返して観ても楽しい思いにさせてくれるのです。

ですが、今回久しぶりに観て胸に染みたのは、映画の終盤における和子と深町の以下のやりとりでした。

「どうして時間は過ぎていくの?」
「過ぎていくもんじゃない。時間は・・・やってくるもんなんだ」

そう。本作『時をかける少女』が持つ輝きも、大林監督が遺した他の作品の数々も、過去の思い出として過ぎていくだけのものではないのです。作品が生き続ける限り、われわれはこれからもずっと、大林監督の映画の魔法を楽しむことができるのですから。
大林監督、素敵な映画の魔法をかけてくださり、本当にありがとうございました。そして、お疲れさまでした・・・。





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