終わりの見えない昨今の状況に疲弊してきていたのか、それとも単なる”お年”のせいか、それとも殺伐とした職場環境にあたったためか、ともかく体調がままならなくなってきたので、有給休暇をとることにした。
これまで大きな病気をしたこともなく、当日になって休みをとるという経験があまりないせいか、始業時間にあわせて「休ませてください」という電話をかけるのがおおいに苦手である。
1時間も前から”セリフ”を復唱して、そわそわ落ち着かない。
ワルイことをするわけではないのだが、迷惑をかけることは確かである。電話口の、相手(上司)の反応も気になる。そういえば、今日はキャビネットの入れ替え作業があったっけ……。
こんな落ち着かないときは、体を動かして気持ちを紛らわすのがいいのではないかと、そのあたりをちょっと整理してみる。整理ができるほどには、元気なのである。(そのことに罪悪感も感じるのだが)。
ふと、掃除機が目にはいる。1年以上も前、部屋に出没した”クモ”と大格闘の末、ヤツを吸い込んだはいいが、クモ入りのダストボックスを掃除する勇気がなく、ずーっとそのまま放置していたのである。(つまりその間、掃除機で掃除したことがないってことね)
よりによってこんなときに、どういう心境の変化か、これを掃除することを決断する。
どんな姿で”ヤツ”は入っているのだろう―。どんな状況にも対応できるように、割りばし、大小のビニール袋、古新聞紙、などを総動員する。万が一、中のゴミを食べて生存している可能性も想定して、ダストボックスをあける作業は室内を避けて、ベランダである。
透明のダストボックスを透かして中をまじまじと眺める。ホコリ以外、見当たらない。中で何者かが動いている気配もない。
恐る恐る、ボックスをあけてみる。フィルターにこびりついたホコリに紛れて片隅に、足が縮んて小さく小さくなったそれらしいものが、くっついている。
ゴミと一体化したような慎ましさ?に拍子抜けする。持ってきた小さなビニール袋でひょいとつまんで捨てる。
クモは足を広げると大きく恐ろしく見えるのだが、こんなふうに足が縮こまると、あっけにとられるほど、縮小するのである。
わたしが1年以上も恐れていたものの本質はこれだったのである。
そいうわけで、わたしがこれから恐る恐る電話をしようとしている上司も、肩書という”足”を広げて大きく見えているけれど、実際には、わたしと同じ、ただの人間。今日一日の自身の仕事のことで頭がいっぱいかもしれず、事務員ひとりの休みをいちいち問題にしている場合ではないだろうなどと、安心するような屁理屈を無理くりに自分に言い聞かせ、5分前からスマホを握りしめ、いざ、8時半ちょうどに職場に電話をしたのである。
これまで大きな病気をしたこともなく、当日になって休みをとるという経験があまりないせいか、始業時間にあわせて「休ませてください」という電話をかけるのがおおいに苦手である。
1時間も前から”セリフ”を復唱して、そわそわ落ち着かない。
ワルイことをするわけではないのだが、迷惑をかけることは確かである。電話口の、相手(上司)の反応も気になる。そういえば、今日はキャビネットの入れ替え作業があったっけ……。
こんな落ち着かないときは、体を動かして気持ちを紛らわすのがいいのではないかと、そのあたりをちょっと整理してみる。整理ができるほどには、元気なのである。(そのことに罪悪感も感じるのだが)。
ふと、掃除機が目にはいる。1年以上も前、部屋に出没した”クモ”と大格闘の末、ヤツを吸い込んだはいいが、クモ入りのダストボックスを掃除する勇気がなく、ずーっとそのまま放置していたのである。(つまりその間、掃除機で掃除したことがないってことね)
よりによってこんなときに、どういう心境の変化か、これを掃除することを決断する。
どんな姿で”ヤツ”は入っているのだろう―。どんな状況にも対応できるように、割りばし、大小のビニール袋、古新聞紙、などを総動員する。万が一、中のゴミを食べて生存している可能性も想定して、ダストボックスをあける作業は室内を避けて、ベランダである。
透明のダストボックスを透かして中をまじまじと眺める。ホコリ以外、見当たらない。中で何者かが動いている気配もない。
恐る恐る、ボックスをあけてみる。フィルターにこびりついたホコリに紛れて片隅に、足が縮んて小さく小さくなったそれらしいものが、くっついている。
ゴミと一体化したような慎ましさ?に拍子抜けする。持ってきた小さなビニール袋でひょいとつまんで捨てる。
クモは足を広げると大きく恐ろしく見えるのだが、こんなふうに足が縮こまると、あっけにとられるほど、縮小するのである。
わたしが1年以上も恐れていたものの本質はこれだったのである。
そいうわけで、わたしがこれから恐る恐る電話をしようとしている上司も、肩書という”足”を広げて大きく見えているけれど、実際には、わたしと同じ、ただの人間。今日一日の自身の仕事のことで頭がいっぱいかもしれず、事務員ひとりの休みをいちいち問題にしている場合ではないだろうなどと、安心するような屁理屈を無理くりに自分に言い聞かせ、5分前からスマホを握りしめ、いざ、8時半ちょうどに職場に電話をしたのである。