TOMATOの手帖

日々の生活の中で出会う滑稽なこと、葛藤、違和感、喪失感……などをとりとめもなく綴っていけたらと思っています。

ゴールなんてなかった

2025年03月02日 | エッセイ
3月になった。
とはいえ、明日の最高気温は真冬並みと言っている。
春の、胸を急にこじあけられるような生温かい風も苦手だが、全身縮こまるようなのも困る。

わたしの勤務日数も残すところ、あと数日となった。
この期場に及んで、あれもこれも片づけていってね、といった空気がみなぎっている。
「猫の手も借りたい」というが、猫の手になりきってあっちからもこっちからも手を引っ張られている。若くない猫なので、おてやわらかにと言いたいが、容赦ない。
令和8年度に事務所が移転するのだそうで、その準備で忙しいのだ。

ずいぶん前に、今年度限りで閉鎖するという職場にいたことがあるが、それは大変な慌ただしさであった。
役所の性質上、3月末日まで業務自体を休止することはできない。
引っ越し業者がロッカーやキャビネットにぺたぺた張り紙をして外に持ち出したり、椅子や机をガタガタ移動させる中、電話を取ったり来客対応をしたものだった。
残務整理に抜かりがあってはならじと、お互いがお互いの仕事の進捗状況を見張っているようで、もともと殺伐としていた課の雰囲気が、いっそう息の詰まるようなものになった。
事務所が閉鎖するとあって、職員全員が異動対象という珍しい状況でもあった。

ま、過ぎてしまえばそうしたお祭り騒ぎも、そんなこともあったわね、と今は昔。
特になつかしもなく、名残惜しくもなく……。
朝早く起きて、決まった場所に移動するという、幼稚園のころから延々と続いてきた習慣がなくなるということがどういう感じなのか、今は想像もできない。
昨年度にいったん退職して非常勤になったために、終わり方がゆるやかなのも影響しているかもしれない。
カレンダーに印をつけながら、退職までの日数を指折り数え、「ああ、これでゴールだ!」と思ったもののさにあらず、まだまだ生きていかなければならないことに気がついて、なんだか愕然としたのを思い出す。



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