日々雑感

最近よく寝るが、寝ると言っても熟睡しているわけではない。最近の趣味はその間頭に浮かぶことを文章にまとめることである。

”空気を読む”の功罪を考える

2016年05月25日 08時54分23秒 | 日々雑感
 その場の雰囲気や状況などを察することを「空気を読む」と表現する。空気が読めない人を、KYで表現するのは若者言葉である。仲間の間で盛り上がる際、それに水を差すような人間は嫌われ、そのような人間はKYと馬鹿にされる所以である。 

 ただし、KYが敬遠されるのは、若者の間ばかりでなく、日本社会のどこにでもある。その場の雰囲気を感じ取ることは、聖徳太子の”和をもって尊しとなす”の精神と相通ずるところがあり、日常生活において極めて重要な心構えである。

 空気を読む心が、他人にも気を配る心となり、”おもてなし” の心となる場合は、赤の他人に対する心配りであり、日本人として自慢してもよいだろう。また、仲間内の心配りであれば、友達から親友になるための条件となろうが、時として付和雷同となる欠点にもなるであろう。しかし、企業内における心配りは、大抵上の方にしか向かわない。これが上役におもねる心に変わるととんだ不幸を招く。

 企業においては、上役の直接の命令を聞かなくても、普段の言動から何を考えているかを察知し、上役に言われなくても行動することは、一を聞いて十を知る頭の切れる人間として重宝される。出世するための第一歩でもある。

 最近、三菱自動車における不正燃費問題が明らかになった。三菱自動車の性能実験部の管理職が、子会社「三菱自動車エンジニアリング」の管理職にデータ改ざんを指示したと既に明らかにされているが、更に、三菱自動車の本社経営陣の関与を調べるために、国交省は13日三菱自動車本社へ立ち入り検査を始めたとのことだ。

 十中八九、文書での指示等の明確な証拠は何も出てこないであろう。三菱自動車は三菱重工から分かれた企業であり、三菱重工は三菱財閥の中枢であり、日本経済や政界と深く結び付いている。このため、三菱自動車においては技術最優先ではなく、組織最優先であり、何か事があれば三菱グループいや国が救ってくれると思っていたに違いない。これまでに不祥事が2度もあったが、三菱自動車は見かけ上見事に立ち直った。

 2000年には、リコールにつながるような不具合を20年にわたって隠ぺいし続けていたこと、02年には同社製大型トレーラーの車輪が突然外れるという事故があったにも拘わらず、部品の欠陥を隠し続けていた。その都度、抜本的な対策を図るとの決意表明はあったが、組織は揺るがず、企業体質は何も変化なかった。周りに気を使い、独自の判断を出来ない社風は簡単には変えられないのだ。

 三菱自動車は業績の点では、トヨタやホンダには最近大きく水を開けられ、経営陣は三菱グループの中でも肩身が狭い思いをしていたに違いない。当面の燃費競争に勝つためデータの改ざんをしても、三菱の名前の威信でばれることは無い、ばれても国が何とかしてくれるとのおごりが経営陣にあり、その雰囲気を社員が感じ取り、会社一丸となってこのような不祥事を招いたのであろう。

 警察も不祥事の直接責任者は誰も特定できないであろう。5年前の東日本大震災時における東京電力の原発事故、11年前のJR福知山線脱線事故、と同じ構造である。反省材料として、現場の生の声を聴けと意思疎通の重要さがよく指摘される。もっともであるが、組織においては、耳は上の方しか向いていない。経営陣の耳は更に上、政・財界等に向いているだろう。

 この不祥事を受けて、三菱自動車は日産自動車の傘下に入ることが決定した。この話は、以前の不祥事の頃からあった話といえ、またゴーン社長の英断というより、陰で経済界や政界が動いて三菱を救ったと勘繰ることもできる。このような一連のスムーズな動きは、直接の話し合いの結果ではなく、常日頃の交流からの ”空気を読んだ” 結果であろう。

 なお、1966年に日産自動車はプリンス自動車を合併したが、その代表的な車であるスカイラインの名前は今日でも生き残っている。そのうち、三菱自動車も日産に合併されると思われるが、代表的なパジェロの名前は、不祥事の汚名を着たまま生き残ることが出来るであろうか。
2016.05.25(犬賀 大好-236)