公的年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、7月29日、昨年度の公的年金積立金の運用損が5.3兆円だったと発表した。しかし、安倍政権下では累積38兆円の運用益とのことで、今回の赤字云々は問題外と詫びれた様子はなかった。
ところが、GPIFが1か月後の8月26日に発表した2016年4~6月期の運用実績は、前期に引き続き5兆円強の赤字となった。2014年10月に資産構成に占める株式の比率を2倍に増やして以降の累積では1.1兆円のマイナスと赤字に転落したとのことである。英国による欧州連合(EU)からの離脱決定などで加速した円高・株安が響いたとのことであるが、原因を人のせいにして済ませられるのは、何とも気楽な商売である。
GPIFは、市場価格の変動に応じて資産を売買するのではなく、配当や利子で積立金を増やす投資が基本だそうで、従って赤字は株式の評価損が原因であろう。国内株式の保有銘柄はトヨタ自動車1.5兆円など、国内大手企業であるそうだ。銀行利子がほぼゼロ状態の日本の現状では、株式に投資して配当で稼ぐやり方は理解でる。しかし、企業が配当金を出せる安定状態で存続し、株式を長期間保持し続ける前提での話である。
そもそも、GPIFの年金運用改革の株式比率を従来の2倍の50%に引き上げるとき、運用する株式の選択基準をどのように決めたのであろうか。国民の大切な資金の運用であるので、当然安定した大企業になるだろうと予想されるし、現実そのようになっているようだ。しかし、そもそもこの方針は成長戦略との矛盾も孕む。
すなわち国はこれら大手企業を保護する方向にもっていかざるを得ず、産業構造の固定化に繋がるであろう。原発維持もその一例である。自然エネルギーの促進も成長戦略の一環であるが、国は二兎を追わなくてはならない状態となる。
そもそも、GPIFの運営方針は既存の企業の安定維持であるのに対し、成長戦略は既存企業の変革であり、極端に言えば破壊だ。米国で盛んになりつつあるシェアリング・エコノミー・サービスは、物品を多くの人と共有したり、個人間で貸し借りをしたりする際の仲介を行うサービスの総称であり、社会イノベーションである。日本でも赤ちゃん用品や電動工具等の貸し出しを行う業者も既にあるが、個人の所有する物を他人に貸し出すまでには至っていない。
スマートフォン等を利用して、両者の仲介をするサービスがシェアリングエコノミー・サービスはあり、米国では自動車・自転車・空き部屋等まで対象になっているサービスであり、これからの成長分野であろうが、日本に根付くためには大幅な規制緩和、すなわち既存勢力の破壊が必要である。
車の共用であるライドシェアの全面的認可は、タクシー業界や自動車メーカのあり方を一変する。これらの業界は、そうはならじと、認可に際しては様々な制限、条件を付けてくるだろう。自動車メーカはGPIFにとっても重要な投資先だ。国としても株価が下がるような規制緩和を容認する筈がない。
空き部屋の利用でも米国がかなり先を行っている。宿泊スペースを借りたいユーザーと、宿泊スペース物件を持つユーザーを仲介するAirbnbは日本市場への進出において、様々な軋轢と批判を生んでいる。安全面もさることながら、”あまりに安いので、旅館や民宿・ペンションの経営が打撃を受ける”という既存業界側からの猛反発があるそうだ。
防火・防犯の備えのない施設が無条件に貸し出されるのは安全面で問題ではあるが、遊んでいる資源を有効に使用するのは、正に資源の有効活用である。国も、4年後の東京五輪での宿泊施設の充実を兼ねて民泊の認可を進めているが、既存の業界は、安全を理由に様々な条件を国に要求するだろう。
しかし、ライドシェアが限られた客を奪い合うのに比べ、空き部屋のシェアは増加する外国からの観光客対策の意味が強いため、観光客が多い間は、既存勢力の破壊までに至らず、共存の道がありそうである。2016.09.03(犬賀 大好-265)
ところが、GPIFが1か月後の8月26日に発表した2016年4~6月期の運用実績は、前期に引き続き5兆円強の赤字となった。2014年10月に資産構成に占める株式の比率を2倍に増やして以降の累積では1.1兆円のマイナスと赤字に転落したとのことである。英国による欧州連合(EU)からの離脱決定などで加速した円高・株安が響いたとのことであるが、原因を人のせいにして済ませられるのは、何とも気楽な商売である。
GPIFは、市場価格の変動に応じて資産を売買するのではなく、配当や利子で積立金を増やす投資が基本だそうで、従って赤字は株式の評価損が原因であろう。国内株式の保有銘柄はトヨタ自動車1.5兆円など、国内大手企業であるそうだ。銀行利子がほぼゼロ状態の日本の現状では、株式に投資して配当で稼ぐやり方は理解でる。しかし、企業が配当金を出せる安定状態で存続し、株式を長期間保持し続ける前提での話である。
そもそも、GPIFの年金運用改革の株式比率を従来の2倍の50%に引き上げるとき、運用する株式の選択基準をどのように決めたのであろうか。国民の大切な資金の運用であるので、当然安定した大企業になるだろうと予想されるし、現実そのようになっているようだ。しかし、そもそもこの方針は成長戦略との矛盾も孕む。
すなわち国はこれら大手企業を保護する方向にもっていかざるを得ず、産業構造の固定化に繋がるであろう。原発維持もその一例である。自然エネルギーの促進も成長戦略の一環であるが、国は二兎を追わなくてはならない状態となる。
そもそも、GPIFの運営方針は既存の企業の安定維持であるのに対し、成長戦略は既存企業の変革であり、極端に言えば破壊だ。米国で盛んになりつつあるシェアリング・エコノミー・サービスは、物品を多くの人と共有したり、個人間で貸し借りをしたりする際の仲介を行うサービスの総称であり、社会イノベーションである。日本でも赤ちゃん用品や電動工具等の貸し出しを行う業者も既にあるが、個人の所有する物を他人に貸し出すまでには至っていない。
スマートフォン等を利用して、両者の仲介をするサービスがシェアリングエコノミー・サービスはあり、米国では自動車・自転車・空き部屋等まで対象になっているサービスであり、これからの成長分野であろうが、日本に根付くためには大幅な規制緩和、すなわち既存勢力の破壊が必要である。
車の共用であるライドシェアの全面的認可は、タクシー業界や自動車メーカのあり方を一変する。これらの業界は、そうはならじと、認可に際しては様々な制限、条件を付けてくるだろう。自動車メーカはGPIFにとっても重要な投資先だ。国としても株価が下がるような規制緩和を容認する筈がない。
空き部屋の利用でも米国がかなり先を行っている。宿泊スペースを借りたいユーザーと、宿泊スペース物件を持つユーザーを仲介するAirbnbは日本市場への進出において、様々な軋轢と批判を生んでいる。安全面もさることながら、”あまりに安いので、旅館や民宿・ペンションの経営が打撃を受ける”という既存業界側からの猛反発があるそうだ。
防火・防犯の備えのない施設が無条件に貸し出されるのは安全面で問題ではあるが、遊んでいる資源を有効に使用するのは、正に資源の有効活用である。国も、4年後の東京五輪での宿泊施設の充実を兼ねて民泊の認可を進めているが、既存の業界は、安全を理由に様々な条件を国に要求するだろう。
しかし、ライドシェアが限られた客を奪い合うのに比べ、空き部屋のシェアは増加する外国からの観光客対策の意味が強いため、観光客が多い間は、既存勢力の破壊までに至らず、共存の道がありそうである。2016.09.03(犬賀 大好-265)