日々雑感

最近よく寝るが、寝ると言っても熟睡しているわけではない。最近の趣味はその間頭に浮かぶことを文章にまとめることである。

日本の大学の魅力の低下

2017年11月08日 11時09分10秒 | 日々雑感
 Nature 2017年3月の特別企画冊子「Nature Index 2017 Japan」は、日本の近年の研究実績に関する情報を紹介している。Nature Indexとは、世界トップクラスの研究成果を国・機関別に特長付けするデータベースである。

 これによると、日本の科学成果発表の水準は低下しており、ここ10年間で他の科学先進国に後れを取っているとのことである。 例えばNature Indexに収録されている高品質の科学論文に占める日本からの論文の割合は、2012年から2016年にかけて6%下落しておるのだそうだ。中国の急速な成長の影響により、米国などの科学先進国が占める割合は相対的に低下している面もあるが、日本からの論文発表は、絶対数も減少している、とのことだ。

 政府主導の新たな取り組みによって、この低下傾向を逆転させることができなければ、科学の世界におけるエリートとしての座を追われることになりかねないと、警告を発している。政府主導の取り組みとは、大学への援助資金の増額が第1歩であろう。

 日本の大学の独立法人化により、国からの資金が減額され、自分の研究費は自分で稼ぐよう、すなわち研究資金を企業から得るよう方向付けされた。このため企業に即役に立つ研究が取り上げられる傾向が強く、2,3年で成果が出るよう、リスクを避ける研究となっている。これはこれで地域の活性化等に役立っているとの話であるが、国際的に評価される研究とはなり難い。

 また東大での修士から博士課程の進学率が2001年は42%だったのが2016年には26%まで低下したそうだ。この背景は若手研究者の雇用の不安定化である。大学教員のうち任期付きが東大全体の6割超にも上がるそうだ。3~5年の任期が終了すれば次の就職先を探さなければならず、奥深い研究などしておられない。これも政府からの資金削減の結果だ。

 しかし、原因は資金削減だけではない。大学を取り巻く社会環境も変化している。日本経済は平成に入ってバブル経済の絶頂を迎え、その破綻後、大手金融機関や大手企業の経営破綻が相次ぎ、失われた20年といわれる長期停滞に苦しんでいる。また、技術の変化の流れが速く、グローバル化と相まって、シャープや東芝等の一流企業もかっての輝きは失われている。高校、大学で一生懸命勉強して一流企業に就職できたとしても、それが報いられるとは限らない。

 すなわち日本の大学に入る魅力が薄れてきているのだ。また魅力の低下が水準低下につながる悪循環となっている。最近トップクラスの学生は日本の大学に見切りをつけ海外の大学に留学する希望が、確実に増えているらしい。欧米のトップクラスの大学は入学すること自体も難しいが、また学費も高いため学生であることを維持することも困難であるようだ。しかし、敢えて挑戦する若者が増えているようであり、このような若者が将来の日本を背負っていくことになるのであろう。

 日本の大学が日本の若者に見放されているのは自業自得であるが、海外の若者にも見放されつつあるのは何とも嘆かわしいことだ。記憶は定かではないが、東南アジアの某国の若者が、日本の大学に行っても何の役にも立たないと言っていたことが今でも印象に残っている。

 有能な若者が、日本の大学より海外の大学に進学するのは、まだ全体から見ればごく少数であろう。OECD等の2014年統計による日本人の海外留学者数を集計したところ、53,197人(対前年度比2,153人減)であり、2014年をピークに減少傾向にあるようだ。この点若者の内向き志向が嘆かれているが、一方では挑戦的な若者がいることは喜ばしい。

 一口に留学と言っても、大学・大学院留学やMBA留学などのアカデミックなものから、美容や映画などの専門技術を学ぶもの、語学の習得を目的とするものがあり、多種多様だ。

 独立行政法人日本学生支援機構の調査によると、日本人学生の海外留学状況は、2015年度で、84,456人(対前年度比3,237人増)となり、増加傾向にあるとのことだ。

 OECDの調査はアカデミックな留学を対象としているのに対し、支援機構の調査は専門技術や語学留学も対象にしているのであろう。この方面での若者の増加は頼もしいが、裏を返せば、日本の大学を卒業するだけでは、何の役に立たないことを物語っているのであろう。2017.11.08(犬賀 大好-388)