昨年10月、河野前行革担当相は、約1万5千の行政手続きのほとんどで押印を廃止すると宣言した。それから一年経ってどうなっているかは定かではないが、自治体でも脱ハンコの動きが広がっているようだ。
さいたま市では新年度から、これまで条例や規則で押印が必要だった行政書類の9割近くでハンコを使わずに手続きできるようになったそうだ。市行財政改革推進部によると、市が書面で交わす行政手続きの種類は約6千件あり、そのうち、市民活動の助成金交付や災害見舞金支給の申請書、市民税の申告書など、押印が必要な書類は約4400件あったが、市は脱ハンコを進める市の指針に沿って約3200件で押印をなくしたそうだ。一方、約300件については実印や法人代表印の押印を残す必要があると判断したとのことだが、これらに代わる信頼性の高い確認法の確立を待つしかないだろう。
河野前行革相の鶴の一声があったとは言え、1年間でこれほど改革されるとは驚くばかりだ。逆に今まで何をやっていたと、無駄なことを無駄と感ぜずやっていたお役所仕事の前例踏襲主義をつくづく感ずる。このような無駄な仕事はまだ多々あるに違いないが、現場からの改革は無理であろう。
さて、このような改革により、ほとんどの業務でテレワークが可能になったにもかかわらず、契約書や請求書、決裁のハンコを押すためだけに出社しなければならない場合もまだ残っているようだが、個人レベルでの改革は無理である。
日本社会のデジタル化の遅れは先進国の中でも抜きんでているようだ。政府はデジタル庁を新設し役人の世界のデジタル化を促進しようと躍起であるが、まず政治家本人のデジタル化を率先垂範することが効果的であろう。
例えば、政治団体は、1年間の収入や支出を政治資金収支報告書に記載し、総務省か都道府県の選挙管理委員会に提出しなければならない。総務省は11年前、20億円余りをかけて収支報告書をオンラインで提出する現在のシステムを導入し、政治資金規正法は国会議員関係の政治団体に対し、このシステムの利用に努めるよう定めている。
NHKがことしの利用状況を総務省とすべての都道府県に取材したところ、国会議員が関係する2987の政治団体のうち、このシステムを利用し、提出したのは80団体、率にして2.7%だったそうだ。去年と比べると3倍近くに増えたが、導入から10年以上がたっても、利用はこの程度だ。
利用しない最大の理由は、手続きの煩わしさより、政治家個人の活動の内容が公になることを避ける為かも知れないが、わざわざ20億円で作り上げたシステムを使わないとは情けない。もっと厳しい罰則を設けて使用するように強化すべきだ。
国のデジタル社会化は、政治家自身が率先して行えば、その長所短所が実感され、法整備等も進み、もっと良い環境の下で、出来上がるのではないだろうか。2021.12.11(犬賀 大好ー771)