安倍首相が長期政権を維持できたのは衆参の国政選挙に勝ち続けたからである。すなわち2012年9月に自民党総裁に就任してから19年7月の参院選まで6連勝した。その原因は、野党勢力のだらしなさもあるが、「3本の矢」「成長戦略」「地方創生」「人生100年時代構想」「1億総活躍社会」「人づくり革命」「働き方改革」「全世代型社会保障」等のスローガンを多発し、バラ色の将来を想像させて、選挙に上手に活用したことである。岸田首相も「新しい資本主義」や「異次元少子化対策」等のスローガンを掲げているが、中身がよく分からず、今総選挙をしたところで、人を魅了する効果は少なそうである。
安倍長期政権を支えたもう一つの要因は官僚任命権である。第2次安倍内閣の下、2014年に「内閣人事局」を創設して、局長や審議官等の高級官僚の約600人について、人事局の承認を必要とした。と言っても、内閣人事局の職員が大勢集まって議論して決める訳ではないだろう。参考資料は作るかも知れないが、最終的に決めるのは首相であろう。従って昇格を人質にとられた官僚に首相の顔色をうかがう傾向が出てきた。その典型例が森友学園問題であり、加計学園問題である。
内閣人事局ができて、族議員の介入や有力OBの露骨な介入は影を潜め、政権は官僚を思い通りに使いこなせるようになったと思われるが岸田政権はどうであろうか。安倍政権では1を聞いて10を知る官僚が増えたが、岸田政権下では防衛費や子育て支援の予算の確保にあたふたしている。秋までに明確にするとしているがどうも官僚達を充分使いこなしていない気がする。
それと言うのも首相の人事権掌握の効果も政治の力関係に関係するようだ。現在岸田首相の求心力はあまり強く無いようだ。岸田内閣の閣僚交代は昨年10月以降4人目となるし、最近では女性議員のパリでの観光気分の研修旅行や、秋本議員の風力発電に関わる収賄事件等、岸田政権の足を引っ張る不祥事が相次いでいる。内閣が弱体化すれば、再び部外者の関与が激しくなり、それに伴い官僚も素直に言うことを聞かなくなる可能性が大きくなるのだそうだ。
異次元金融緩和では大企業は外部に投資することなく内部留保を激増させ、自らの改革精神を失なった。現状に安泰していては、デフレから脱却できないし、経済は成長しない。安倍政権7年半の国内総生産(GDP)の実質成長率は年平均1.03%にすぎず、2009~12年の民主党政権の実質成長率の年平均1.84%を下回る。こうして失われた30年が作り出された。
岸田政権は予算の財源に四苦八苦しているが、この500兆円を超す内部留保を活用する手を打つべきだ。安倍政権の負の遺産はいろいろあるが、ため込まれた内部留保は貴重な遺産と考えるべきだ。法律的な縛りは様々あるようだが、優秀な頭脳を有する筈の高級官僚に一喝すれば何か手を考え出すだろう。大企業も内部留保が無くなれば、必死に生き残るための手を考えるだろう。2023.08.12(犬賀 大好ー938)
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