今年5月31日、発電用原子炉の運転期間の原則40年を、原子力規制委員会が認めれば最長20年延長でき、最長60年可能とすることが決まった。しかし、同時に、原則40年最長60年という制限は維持しつつ、経済産業大臣が認可すれば原子力規制委員会の審査などで停止していた期間を運転期間から除外することで実質的に60年を超えて運転可能とすることも決まった。
原発の運転延長は、岸田政権が打ち出した原発回帰の柱だ。2011年の福島第1原発事故以来、原発の安全神話が崩れ、相次いで運転休止に追い込まれ、原発は日影者扱いになっていたが、岸田首相は、昨年8月に運転延長に加え、新規建設、再稼働の促進、等原発政策の転換を検討するよう指示した。日影者を日の当たる場所に移したのだ。安全神話の復活との声も聞かれる。しかし、原発の残した負の遺産に対する対策はここでは何等触れられていない。
負の遺産の一つが核廃棄物の処理場問題だ。原発事故で莫大な核汚染物を排出したが、その最終処分場は決まっていない。また、原発事故後、廃炉が決まったかあるいは検討中の原子炉が2019年3月時点で24基あるそうで、ここからも大量のゴミが出てくるだろうが、どこに保管するのだろう。
これらの原子炉の多くが現在廃炉作業中と思われるが、廃炉措置の工程は、30年程度の長期にわたるそうで、運転期間に匹敵する期間を必要とする。外国には廃炉の例がいくつかあるそうだが、国内では1基だけ通常の運転を終え廃炉した事例がある。日本原子力研究所の動力試験炉で1976年に運転を終え、1996年に廃炉措置が終わり、現在更地になっているそうだ。
通常運転後の廃炉作業は比較的容易であろうが、それでも20年かかっている。事故を起こした後の廃炉作業は困難を極めるだろう。一番の問題は、原子炉内で溶けだしたデブリの取り出し作業である。燃料デブリは、福島第一原発1~3号機に計880トンあるとされる。燃料デブリは非常に高線量で人が近づけず、遠隔装置を使うしかないため、廃炉に向けた最難関の作業だ。
政府と東電は当初、作業を2021年に始める予定だったが、装置開発の遅れなどで2度にわたって延期された。政府と東電の今年の計画では、原子炉格納容器の内部へ通じる既存の貫通口から折りたたみ式のロボットアームを入れ、試験的に数グラムの燃料デブリを取り出す予定であった。しかし、試験を始めてみると、ロボットアームを入れるためには、貫通口の中にたまっているケーブルなどを除去する必要があることが判明し、延期となった次第だそうだ。実際に取り出し作業を始めるとこのように想定外の問題が見つかり、今回の延期が最後とはならないだろう。
原発がトイレの無いマンションと揶揄されないよう、岸田首相は排泄物の処理法を確立した後に原発回帰の道を探るべきであろう。2023.11.08(犬賀 大好ー960)
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