菅義偉首相が日本学術会議の新会員候補6人の任命を拒否したことが、マスコミを賑わしている。菅首相は10月5日、インタビューで”同会議は政府機関で、会員は公務員、年間10億円の予算を使っており、人選は事実上、現在の会員が後任を指名することも可能で、そうした前例を踏襲していいのかを考えた”と述べたが、踏襲したくない前例とは、この文脈からは、会員が公務員となることか、10億円の予算の使い方か、現在の会員が後任を指名することであろう。
しかし、本音は別の所にあり、状況的には拒否理由は明確である。すなわち、任命拒否された6人は、いづれも政府の方針に異を唱えたことのある人だ。”国税で雇っている輩が上司である俺の言うことを聞かないのはけしからん”が本音であろう。
そもそも、学術会議の設立理由が、かって戦争を推し進める政府に学者が加担した反省からのことであるので、拒否理由を ”総合的、俯瞰的な活動を確保する観点から判断した”との言い訳も本音をぼやかして言ったに過ぎない。この言い方は企業における人事に使われる常套句であり非常に便利な言い回しだ。
菅首相は首相就任の挨拶で、国民には丁寧に説明することを心掛けたいとの趣旨の挨拶をしたが、これでは安倍前首相のやり方をそっくり真似したことになり、そこまで継承しなくて良いと思うが。
拒否された人間が学術会議のメンバーになれなくとも、今後の研究活動に不便を来たすことが無いので、学問の自由を侵すことにならないと主張するテレビのコメンテータがいたが、近視眼的な発想だ。
学術会議のメンバーになれば世間的な拍が付く。人間誰しも自尊心があり人から一目置かれることを好む。残念ながら世間一般の評価は中身より表面ずらで決まる。学術会議のメンバーになりたい者は沢山いる。このような者は政府に異議を唱えることを避ける。学術会議の全員が政府の方針に賛成となれば、学術会議の設立趣旨に全く反する。
政府には経済諮問会議等、無数の諮問機関がある。その人選は政府が決める為、結論は先にありきであり、単に外部の識者の意見で包装したに過ぎない。学術会議がこのような諮問機関の一つにならないように、反対意見にも真摯に耳を傾ける姿勢を示して欲しいものだ。
この点、独立系シンクタンク、アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)の活動が注目される。今年7月30日に発足させた「新型コロナ対応・民間臨時調査会」(コロナ民間臨調)が政府の新型コロナウイルス対策の是非の調査結果を近く発表するそうだ。
新型コロナウイルス感染症の日本の感染者数、死者数は主要先進国の中では少なく、政府の対策を「日本モデル」として安倍前首相は胸を張ったが、このコロナ民間臨調は政府のコロナ対策に関し苦言を呈しているようだ。
調査結果では、緊急事態宣言の遅れた理由を小池都知事のせいにしたり、学校の一斉休校に対する説明不足が目立ったり、政府の対応には不手際が目立ったと指摘しているようだ。この指摘に対し日本モデルがやはり誇れるものであったとの政府の反論があって、言論の自由が成り立つ。2020.01.14(犬賀 大好-643)
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