韓国による福島県産などの水産物の輸入禁止は不当であるとして、日本が世界貿易機関(WTO)に提訴していた問題で、WTOは4月11日、韓国の措置を妥当とする最終判決を下した。一審では日本の主張を認め、韓国に是正を求めていたようで、日本はその線に沿うものと安心していたが逆転敗訴となった。
韓国は2011年3月の東電福島第1原発の事故後、放射性物質の拡散を理由に福島や岩手など8県産の水産物の輸入を禁止した。事故後、数年経過し汚染対策も進み、水産業者は海産物の放射能汚染度を調査し、国際的な安全基準を下回ったことを確認していたようだ。
そこで、輸入禁止の科学的根拠が無くなったとして日本は韓国に撤回を求めたが、拒否されたため、2015年にWTOに提訴していた。
WTOは二審制からなり、第一審では日本側は前述のように日本の言い分が認められたと主張しているが、文章には記録されていなかったとの話だ。してみると日本の主張が認められていたとの言い草は日本側の勝手な思い込みであったと思われる。
最終審にあたるWTOの上級委員会は、韓国が取った措置は必要以上に貿易制限的で不当な差別、とした第一審の解釈は誤っているとの見解を示した。WTOの紛争処理は二審制のためこの判決は最終的な判断となり、韓国の禁輸措置が続くことになる。
日本でも同様だが食品への不安は国民生活に多大な影響を与えるため、政府としても何らかの対策が必要となる。韓国の輸入禁止が国内の不安を解消するために必要なことは理解できるが、科学的に安全性が証明されてても、また両国関係を悪化させてまで輸入禁止にこだわる理由がよく理解できない。
韓国国民にとって、例え輸入禁止が解除されたところで、日本産を買わなければ済む話で消費者に任せれば済む話だ。その裏には韓国の水産業者の保護という政治的な配慮があるのではないかと勘繰る。
兎も角、わが国にとって水産物の禁輸措置が続けられることは大きな痛手だ。特定の国の禁輸措置が他国の不安をあおり、風評被害の拡散をもたらす恐れもあるからだ。
さて、福島第1原発に大量に蓄積される汚染水タンクの中身は大半が放射性物質トリチウムを含んだ水で、現時点だと効率的に大量のトリチウムを除去する技術は無いようだ。トリチウムは自然界にも存在し、希釈して海洋に放出すれば問題ないと言われている。しかし政府がいくら科学的に安全と叫んでみても政府や東電に対する不信感が強く、一般国民の安心は容易に得られないであろう。今回のWTOの判決の影響で反対運動は一層大きくなるだろう。
このように、国内住民ばかりでなく国際社会における紛争の解消には、客観性のあるデータ以上に、社会心理、感情、信用が強く影響するようだ。関係者の十分な納得を得ることが必要だが、そのためには信頼関係の確立が必須条件だ。
そもそも原発の安全神話に対する反省が十分になされているかが、根本にある。事故の後始末が完全に終わっていないのに、一方では更に進めようとしている。信頼関係の樹立は極めて困難な状況にあると言わざるを得ない。2019.05.04(犬賀 大好)
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます