森・加計学園問題が風化しつつある現在、森友学園に関する財務省の決裁文書の改竄を担わされ自殺した近畿財務局の男性職員の妻が国や財務省の佐川元理財局長に賠償を求めた裁判が、7月15日、大阪地方裁判所で1回目が行われ、この問題が再び蘇ってきた。
そもそもこの森友学園問題は、安倍首相の昭恵夫人が森友学園の名誉校長になり、国有地が安価に払下げられていることが明らかになったことから始まった。安倍首相がもしこの件で”私や妻が関係しているとなれば、首相は勿論議員も辞める”と言いきったことから、首相側近や高級官僚が証拠となりそうな文書を隠したり改竄するように部下に指示し、部下はそれに従ったとされる事件であり、安倍政権にとって思い出して欲しくない事件である。
この事件の流れは大筋世間に広がっている通りであろう。しかし、政治家や高級官僚の部下に対する指示は、決して具体的で無く、部下は顔の表情や声のこの調子でその意向を汲み取らねばならず、事件が発覚しても上の責任が問われないような仕組みが出来上がっているため、裁判でも事件の全貌は決して明らかにはならないだろう。
相手の気持ちを忖度することは一を聞いて十を知る能力でもあり、通常非常に便利なコミニュケーション能力である。しかし、上司の意向を忖度するこのような仕組みは上司にとって都合の良い部下の能力である。官僚は黙って上司の意向を忖度し、下に向かって少々具体化して指示すれば良いが、下になる程実務を担わなければならず、責任回避が難しくなる。
内閣府が高級官僚の人事権を握ったことで、このシステムはすっかり確立されたようだ。上の覚え目出度くなれば出世すること間違いない。佐川元理財局長も一時は国税庁長官に出世したが世間の非難を浴び、辞任を余儀なくされた。また、今月14日に高級官僚人事の発表があったが、公文書改ざん問題発覚時に対応で中心となった幹部2名が事務次官と主計局長に昇進したのも思った通りの筋書きだ。
自殺に追い込まれた職員はノンキャリアーで実務を担当し文書の改竄をやらされ、常日頃公務員は国民の為に働くことをモットーにしていただけに自責の念にかられたのであろう。原告側が真実を知りたいとの訴えに対して、被告側は「職務中に行った行為で他人に損害を与えた場合、賠償責任は国が負い、公務員個人は責任を負わないという判例が確立している」と主張して、無罪を主張している。
佐川元局長が誰の指示で動いたかは状況的には明らかであるが、証拠の無い忖度の世界の話であり、裁判でも恐らく明らかにすることは出来ないだろう。佐川氏が例え名前を挙げたとしても証拠がないで押し切られ、天下り先を失うだけであろう。佐川氏もこのことを十分承知しており、どこかの天下り先で秘かに余生を送る道を選ぶであろう。
さて財務局も二度とこのような事件が起こらないように組織を見直す等を約束しているが、忖度の世界まで踏み込むことは出来ないだろう。麻生財務相は、公文書の改ざんは由々しきことであり、現場が抵抗していたが本省に押し切られたようで、二度とこのようなことがあってはならんと、他人事のように話しているそうだが、現在の忖度システムを決して手放さないだろう。2020.07.22(犬賀 大好-619)
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