副題は、コミュニティの核をめざす試み。
帯に、津田大介氏推薦!と大きく書かれ、「『カフェでノマド』なんてもう古い!“出会える系”素敵なスポット情報が満載の本です。」とある。
ところで、ノマドといえば、千葉雅也「動きすぎてはいけない」の紹介で書き忘れたのだが、この言葉は、ドゥールーズが使って一般に流布した言葉である。だからどうだ、というのは、この際は置いておくが。(というのは、それをまともに書こうとすると結構な労力になるので。)
帯の下部には、小さな字で「地域を支える情報拠点として。変わる図書館を取材・報告。」
佐賀県武雄市図書館の蔦屋(ツタヤ)への指定管理以来、図書館関係者を超えて広く関心を集めている図書館問題(たぶん)であるが、最近の話題となる図書館をまとめて紹介したという趣きの本。
図書館が、静寂な環境で学生が勉強し、というのは、いささか古いイメージになるし、ベストセラーの無料貸本屋に過ぎないという芳しくない評価にさらされて、というのもまた誤ったイメージということになる。
プロローグが、恋人と出会える図書館、というのは、キャッチーに過ぎるとしても、「最近、あなたの町の図書館でも、(…)ちょっとした変化が起きていないだろうか?」(11ページ)という、変化が、良き方向への進化にほかならない、ということの紹介を手際よくまとめた好著、ということになる。
取り上げられた図書館をひろっていくと、第一章では、東京都武蔵野市の武蔵野プレイス、第2章は、千代田図書館、長野県小布施町のまちとしょテラソ、第3章で鳥取県立図書館、第4章は神奈川県立図書館、第5章で、武雄市図書館と伊万里市民図書館というふたつの対照的な図書館、第6章は国立国会図書館、飯能市立図書館、そして、島根県海士町の中央図書館など、さまざまなタイプの新しい図書館、あるいは、図書館運動というべきかもしれないが、紹介されている。
実は、最近とみに読書が人生の喜び、本を読んでモノを書くというのが青い鳥のようにここにあった幸福、みたいに発見してしまった私にとって、図書館に関わる本というのは、できれば、遠ざけておきたいジャンルで、というのは、まさしくそれがいま仕事であるからなのだが、案の定仕事の延長のようで読み始めていまひとつ心が休まらないということであったが、読み進むうちにだんだん元気を取り戻したというような案配だった。
特に最後の隠岐の島の海士町の取り組みは、なにか勇気づけられるものだった。
「海士町のように、図書館の建物もなく予算もない文字どおり『ゼロ』から始まり、図書館を使ったことのない島民に、図書館の良さを理解してもら」(229ページ)ったという図書館づくり。
そうだな。成長する図書館。それはいいな。そういうふうに図書館は作っていけばいいのかもしれないな。最初から完成したものを求める必要はない、のかもしれないな。
さて、いま、図書館のビジネス支援というものが注目されている。
「長らく、公共図書館は『利用者数』や『貸出冊数』を伸ばすことを目標としてきた。もちろんそれ自体は、多くの公共図書館で現在も推進されていることだし、『良い図書館』の指標のひとつかもしれない。」(85ページ)それを超えた「課題解決型」の図書館がいま目指されているのだと言う。
ビジネス支援を中心とした課題解決。
「たとえば、秋田県立図書館は地元企業と籾殻製の素材を開発、実際に絵本コーナーに使用している。(…)秋田県湯沢市の農家の人が、秋田県立図書館にある古文書でサクランボの歴史などを調べ、サクランボのブランド化の際に必要なイメージを作ったという例もあった。」(64ページ)
続けて、公共図書館きってのビジネス支援図書館であるという鳥取県立図書館が紹介される。
一般的なイメージからすると、ビジネス支援と図書館というのは結びつかないに違いない。ともすると全く相反するものと捉えられかねない。
ところがそうではないのだと言う。「この十年で全国に広がりつつある」(63ページ)
これは、どこの図書館でも通常の司書の業務として行っている「レファレンス」の一環であるに過ぎない。どこの図書館でもやれること、本来やるべきことなのだ。(現実には、そこまで踏み込んで対応できないというところも多いのだが。)
課題解決型の図書館。これは、課題だな。多くの図書館にとって、課題型図書館への成長、脱皮ということは、課題となるべきものであることに間違いはない。
ということで、この本は、日本全国の様々な図書館の実例が手際よくまとめられ、課題も明らかとなり、そして、なにか元気にもしてもらえる好著である、ということになる。
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