今回の特集は、ARG(アアカデミック・リソース・ガイド)デザイン責任者李明博氏による「マンガという体験、図書館という環境」。
昔のイメージでは、図書館とマンガは馴染みが良くはなかった。マンガは基本的に置かないものであった。
しかし、私が、20年ぶりに図書館に戻ってみると、大きなコーナーではないがマンガが置かれ、子供たちのみならず大人の人気を集めていた。
もっとも、マンガは基本的に購入しておらず、利用者からの寄贈に頼っていた。利用者が購入して一度読んだものをどっさりと持ち込んでくれる。
寄贈で、とは言っても収蔵するにあたっては、図書館の資料収集の方針によるわけであり、予算を使っての購入とまではいかないにしても、図書館資料としてマンガもふさわしい、マンガも必要であるとの判断によるものである。
マンガというものについては、私も小学生のころから親しんでいた。少年マガジン、少年サンデーの創刊というのも記憶にある。創刊以来、マガジンの方だったか、毎週楽しみに買い続けた記憶がある。
その後、自分では買うことはなくても、友達から見せてもらったり、あるいは長じては、喫茶店に置いてあったり、ずっとマンガから離れることなく過ごしていた。それは、私のみならず、世の大人も、どっぷりとマンガ文化に浸かって育ってきたのだと言って過言ではないということになる。
考えてみれば、小説も、昔は軟弱な、芸術の領域とは認められない、わいせつだったり通俗な読み物、お楽しみの類と決めつけられていたはずである。
権威ある図書館が所蔵すべき対象とは考えられていなかった。
しかし、言うまでもなく、今は、小説を置かない図書館などは考えられない事態となっている。
マンガはもちろん通俗であり、暇つぶしであり、わいせつで低俗だったりもするわけである。
しかし、特にわたしが十歳代から二十歳代にかけての少女マンガに代表されるように、芸術的にも相当の達成と言える作品、作者も登場するようになった。わたしのみた範囲で、たとえば、大島弓子であり、山岸涼子であり、萩尾望都であり、高野文子であり、というようなことになるわけであるが、それからはや半世紀にもなんなんとするわけである。
いまとなってみれば、むしろ、マンガが図書館から排除されている方がおかしい、図書館資料として当然に収集すべき資料となっているというべきであろう。
しかし、いまだ、一部の図書館を除いて、資料購入費をあてて計画的に収集すべき資料と位置付けられていないケースが多いようである。わたしのかかわった図書館のように、寄贈に頼る施設がほとんどだろうと思う。
こういう状況の中で、今回のLRGの特集である。
これまで、正面から図書館におけるマンガということを論じた書物はなかったのかもしれない。画期的な特集というべきである。世の中を見た時には、遅きに失した、とも言いたくなるが、ここで取り上げたということは、さすがLRG、というべきであろう。
特集は、李明博氏の趣旨の説明に始まって、「マンガ環境のデザイン」の実例、大阪府立中央図書館国際児童文学館、大阪市立中央図書館、白河市立図書館「りぶらん」、京都国際マンガミュージアム、と紹介される。ここでいうデザインとは、建築としてのデザインの意ではなく、その場の機能を含めた構想企画立案の具現化というようなこと。
次に、「公共図書館とマンガ」と題して、白河市立図書館の司書・新出(あたらしいずる)氏の総論的な寄稿。サブタイトルは「ありふれた図書館資料として収集・提供するために」。これは、日本の図書館の歴史と、全国の現況を概観した力作と思う。
次が、大放談「いま、公共図書館に置きたいマンガ」と題して、司会・李明博氏のもと、新出に、ARGの岡本真氏、鎌倉幸子氏を交えての座談である。当然のことながら、みなさん、マンガ大好きの人生を歩んでこられた方々である。
それぞれ図書館に置きたい10冊ということで選ばれている。私の好みでいうと、新氏が取り上げたうちの、萩尾望都「ポーの一族」、山岸凉子「「日出処の天子」はぜひに、と思うほか、大島弓子がなぜ、上がっていないのか!とか、吉田秋生もいいんだけどな、などと思おうところはあるわけである。
後半は「研究の最前線から」とまとめられて、関西大学教授・村田麻理子氏の「マンガの環境としての図書館―ミュージアムとの比較を通して」、京都国際マンガミュージアム研究員・伊藤遊氏の「〈マンガ環境〉を考えるー「マンガミュージアム」の困難と可能性」、海外マンガ翻訳家の椎名ゆかり氏「日本マンガの多様な読まれ方―世界マンガとしての辰巳ヨシヒロ作品」、日本学術振興会特別研究員の三輪健太郎氏「マンガを読むとはいかなる体験か―マンガと近代の時間について」と、興味深く、調査の行きとどいた論考が並ぶ。
今後、図書館とマンガというテーマで論ずる場合には、まず第一に取り上げるべき資料、という位置づけにもなるであろう特集であると思う。
私自身は、いわば少女マンガ・マニアではあったわけだが、結婚後、少女マンガの月刊誌の購入をやめてしまい、それ以前に気仙沼に戻って以来、少年マンガを中心とする週刊マンガ誌を常備する喫茶店等へ通うこともなくなった。最後まで定期購読していたのは、山岸凉子の「日出処の天子」が連載された「月刊LALA」であったが、置き場所の問題などもあって、自然に遠ざかってしまった。
しかし、2年前、本吉図書館に、たまたま吉田秋生の「海街diary」第7巻までと、そのスピンアウトというのか「Lovers Kiss」が所蔵されており、思い立って久しぶりに手に取って読んでみた。
最近では、気仙沼図書館で「海街diary」第8巻と、大島弓子の名作選を見つけ読んでみた。
だからといって、マンガを継続して読み始めているわけでもないが、思うところは深いものがあり、作者を限定しつつ時折読んでいきたいとは思い、それぞれ、このブログで紹介している。それは、考えてみると、今の私の小説に対するスタンスとまったく同じもの、ということになる。
ちょうどそういうタイミングで、この特集であった。不思議な符合というべきかもしれない。
田中輝美さんの隠岐の島の図書館についての報告、猪谷千香さんの青森県の八戸ブックセンターの紹介など、連載も見逃せないところ。
(参考)
大島弓子セレクション セブンストーリーズ 角川書店
https://blog.goo.ne.jp/moto-c/e/3047568427c06e0708a83759ae4b0fa9
吉田秋生 海街diary8 恋と巡礼 小学館
https://blog.goo.ne.jp/moto-c/e/ec3f7043d628f36821a057cabd13fb91
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