わが詩誌霧笛代表、西城健一さんの18年ぶり、4冊目の詩集である。ことし2月10日付の発行。
西城さんは、気仙沼市の西北、北上山地の谷間いの八瀬川の上流域、桃源郷・八瀬地域にお住まいで、豊かな自然環境のただなかで静かに生活を送っておられる。毎日、お仕事で気仙沼の街中に通われているが、精神生活の中核は、八瀬の山間いにある。
全編を3つに分けた最初の章〈季節〉から「一本の川」を引く。
「肌をさす冷たい風が吹きすさび
雪が舞い落ちてくる中
一月の川が
流れている
上流から下流へと静かに流れて
流れは止まることがない
川を囲む枯れすすきの群れが
寒風に大きく揺れている
一月の川は
決められた道の中を
深く静かに流れている
たくさんの悲しみの涙を
包み込み
たくさんの喜びの涙を
包み込み
たくさんの希望を失くした人々の涙を
包み込み
ただ悠然と流れていく
一月の川は
冬と対峙して
それに逆らわず
それを受け止めて
流れている
熟成した魂は
幾時代かを乗り越えて
磨かれてきた」(16ページ)
この川は、八瀬盆地を南北に貫流する八瀬川であることに間違いないが、同時に八瀬に留まり続ける西城さん自身であることも間違いない。悲しみと喜びを包み込み、厳しくもある人生に変わることなく対峙して、悠然と流れつづける。時代を乗り越えて磨かれ熟成した魂である。
その西城さんの人生において、詩を書くことが重い意義をもちつづけている、というのも確かなことだろう。
二つめの章〈震災〉から「ジャズタイムジョニー」
ジョニーは、霧笛同人・照井由紀子さんが、震災後も仮設店舗で継続している陸前高田のジャズ喫茶である。
「震災後、避難所で照井さんに会った
狭い自分のスペースを工夫して広げ
コーヒーを入れていた
周りは津波の被災者で溢れていた
私もコーヒーをご馳走になった。
狭い空間の中で
雑然と荷物が並ぶ中で
照井さんのいれたコーヒーは
きらりと光っていた
(中略)
仮設店舗で店を開いた
ジャズタイムジョニー
物資の乏しい中
生きることに気力を失くす人が多い中
ふたたび、生き抜くための
一歩を歩き始めた
何人もの友だちを津波で失った
その人達にたくさんの励ましや
前へ進むことだけでなく
時々歩みを止め
思い出を語り合うことも大事だ
と照井さんは静かに語っていた。」(23ぺーじ)
東北地方の片田舎で継続しているわれわれの「詩誌霧笛」であるが、実直に、愚直に自分の人生に向き合って書き続けるこういう詩作品にも、この世の中に確かな場所はあるのだと思う。こういう場所を守り続けることに意義はあるのだ、と思う。
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