ぼくは行かない どこへも
ボヘミアンのようには…
気仙沼在住の千田基嗣の詩とエッセイ、読書の記録を随時掲載します。

西城健一 詩集優しい雨 自家版

2018-05-06 11:56:40 | エッセイ

 わが詩誌霧笛代表、西城健一さんの18年ぶり、4冊目の詩集である。ことし2月10日付の発行。

 西城さんは、気仙沼市の西北、北上山地の谷間いの八瀬川の上流域、桃源郷・八瀬地域にお住まいで、豊かな自然環境のただなかで静かに生活を送っておられる。毎日、お仕事で気仙沼の街中に通われているが、精神生活の中核は、八瀬の山間いにある。

 全編を3つに分けた最初の章〈季節〉から「一本の川」を引く。

 

「肌をさす冷たい風が吹きすさび

 雪が舞い落ちてくる中

 一月の川が

 流れている

 上流から下流へと静かに流れて

 流れは止まることがない

 川を囲む枯れすすきの群れが

 寒風に大きく揺れている

 

 一月の川は

 決められた道の中を

 深く静かに流れている

 たくさんの悲しみの涙を

 包み込み

 たくさんの喜びの涙を

 包み込み

 たくさんの希望を失くした人々の涙を

 包み込み

 ただ悠然と流れていく

 

 一月の川は

 冬と対峙して

 それに逆らわず

 それを受け止めて

 流れている

 

 熟成した魂は

 幾時代かを乗り越えて

 磨かれてきた」(16ページ)

 

 この川は、八瀬盆地を南北に貫流する八瀬川であることに間違いないが、同時に八瀬に留まり続ける西城さん自身であることも間違いない。悲しみと喜びを包み込み、厳しくもある人生に変わることなく対峙して、悠然と流れつづける。時代を乗り越えて磨かれ熟成した魂である。

 その西城さんの人生において、詩を書くことが重い意義をもちつづけている、というのも確かなことだろう。

 二つめの章〈震災〉から「ジャズタイムジョニー」

 ジョニーは、霧笛同人・照井由紀子さんが、震災後も仮設店舗で継続している陸前高田のジャズ喫茶である。

 

「震災後、避難所で照井さんに会った

 狭い自分のスペースを工夫して広げ

 コーヒーを入れていた

 周りは津波の被災者で溢れていた

 私もコーヒーをご馳走になった。

 狭い空間の中で

 雑然と荷物が並ぶ中で

 照井さんのいれたコーヒーは

 きらりと光っていた

 

  (中略)

 

 仮設店舗で店を開いた

 ジャズタイムジョニー

 物資の乏しい中

 生きることに気力を失くす人が多い中

 ふたたび、生き抜くための

 一歩を歩き始めた

 

 何人もの友だちを津波で失った

 その人達にたくさんの励ましや

 前へ進むことだけでなく

 時々歩みを止め

 思い出を語り合うことも大事だ

 と照井さんは静かに語っていた。」(23ぺーじ)

 

 東北地方の片田舎で継続しているわれわれの「詩誌霧笛」であるが、実直に、愚直に自分の人生に向き合って書き続けるこういう詩作品にも、この世の中に確かな場所はあるのだと思う。こういう場所を守り続けることに意義はあるのだ、と思う。

 


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