ぼくは行かない どこへも
ボヘミアンのようには…
気仙沼在住の千田基嗣の詩とエッセイ、読書の記録を随時掲載します。

2017-02-18 00:46:48 | 詩集 湾Ⅲ 2011~14

旅は気持ちを高揚させる

日常とは別のしかたで

われわれを興奮させる

 

千年に一度

の事件の現場が

ひとを高揚させないわけがあるだろうか

そこで

その現場で

はしゃいでいる若者を

咎めることができるだろうか

若者たちが記憶にとどめ

いつか再び語り出すことを待ってはいけない

だろうか

 

そう

記憶にとどめる

巨大な鉄の塊がそこに

とどめられているように

 

あたりを

カモメが飛び交う

カモメが陸を飛ぶ日は

雨が降るという

 

カモメが船の周りを飛ぶのは

日常の光景だが

 

海の上で

湾内航路の旅客船の航跡のうえを

カモメが上に下に高度を変えながら飛ぶのは

晴れた日のありふれた情景だが

白い熱い砂浜の海水浴のあと

西に傾いた太陽の光線を浴びながら

えさを手に持って飛ぶカモメにくわえさせるのは

この土地の

夏の行楽に欠かせない情景だが

 

陸の上の鉄の塊は鈍重だ

醜悪ですらある

決して見慣れることがない

決して見慣れることがないのに

カモメが飛び交い

花が添えられ

手を合わせるひとびとがいる

通り過ぎる車の後部座席からじっと見つめて

振り向いてなお見つめるひとがいる

 

われわれがどうにもしようのない

途方もなく大きなもの

途方もなく大きなものの残した遺物

異物

 

ひとは花を添えて

手を合わせる

記憶にとどめる

そして立ち去る

重さに耐えかねて

ときおり

記憶を反芻する

重さを求めるように

 


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