冬の雨 心こごりて 子を思ふ 夢詩香
*ここは南国ですから、冬でもあまり雪は降りません。降っても2~3センチ積もるくらいで、すぐに溶けて消えてしまいます。
雨が降ることのほうが多い。だが冬の雨というのは寒い。冷たい風の中で雨に濡れたりすると、骨まで染みるような気がします。
北国の寒さとはまた違うものがある。
部屋の中で、暖房に守られながら、外の雨の音を聞いていると、自然に、今は心を閉じている、あの子のことを思う。
わがままな子ではなかった。かのじょに似て美しい子なのだが、かのじょの子だというだけで、あの子は一番苦しみを味わってきた。
小さなころから、いろいろなことを経験してきて、世間のあまりに愚かな人間模様を見てきた。それは、親に対する恨みの色にも覆われて、彼の心をむしばんだのだ。
だから今、彼は隠れている。自分を守ることにしか、自分を使っていない。わたしたちは、それをことさらに責めはしない。悪いのは、彼のほうではない。世間のほうだからです。
今の時代は、悪いもののほうが、世間になっているのです。わがままをがまんできない馬鹿な人間の方が偉くなっているから、本当によい子が、引きこもりなどで自分を守ることでしか、自分を表現できないのだ。
だが、馬鹿ばかりになった世間は、もう崩れ始めている。自分よりいいというものをことごとくつぶしてきて、馬鹿ばかりが偉い世界を作ってしまったら、とたんに美女が滅びてしまった。そうしたら、馬鹿の世界は一瞬で無意味になってしまったのです。
馬鹿が、あらゆる理屈で防衛しながら、営々とやってきたことは、すべて、美女を手にいれるためだったのだと、そういうことが、もろに明らかになったのです。
いずれ馬鹿は、南国の冬の雪のように、次第に溶けていくだろう。そしてすっかりなくなってしまうだろう。冬でも、南の国の光は暖かい。冬将軍の白い使いが勝てる相手ではない。
美しいあの人が、愛していたあの子が、外に出られる日が、必ず来る。
冬の雨の音は寒い。だがいつか来る春を思わせる音でもあります。