白鳥に ならむとはして その肝を 食ひし小鴨が 鴨に帰れず
*きついものが続きます。かのじょの甘い作品もたくさん残っているのですが、今は気分として、こういう感じのを選んでみたいですね。
白鳥になりたいと思って、白鳥の肝を食った小鴨が、うまく化けてはみたが、元の自分に戻ろうとしたら、もうそれができなかったと。
こういうことは、よくあるのですよ。馬鹿なことをすると、馬鹿なことをしたもの、というものに、人間はなってしまうのです。どうしても、やったことの跡が、自分に残るからです。
白鳥に化けた小鴨に、白鳥の羽が生えるようなものです。それは見るからにおかしい。鴨には鴨なりの羽があって、それが似つかわしくてとても美しいのに、奇妙に違う羽が生えている。それだけで、妙な鴨になる。
恥ずかしいなどというものではありません。
人から顔や姿を盗むと、自分の霊体にその跡が残るのです。それは絶対に消えない。そんなことばかりしてきた人間の霊体には、その跡が痛いほど残っている。二度と消せない跡が、卵のようにくっついていて、とても変な感じになっている。それが恥ずかしくて、隠そうとして、また盗む。
そんなことばかり繰り返して来たら、とうとう、鴨が鴨ではないものになってしまうのです。
この時代、あまりに愚かな盗みをやって、とうとう人間ではないものになってしまった人間が、たくさん出ました。もはや二度と人間には戻れないというものになってしまった。そういう馬鹿がたくさん出たのです。
いやなことをするなどというものではない。田舎の掃除夫が大国の大統領になるというほどの愚かな盗みをやってしまったら、とうとう自分が人間ではなくなったのです。人間とは全く違うものに、なってしまったのです。
浅はかな自分の欲望のために、大国の運命を盗んだからです。それで人類を困難に巻き込んで、恥じることさえしなかったからです。そんなものはもう、人間ではないのです。
彼はもう二度と人間に戻れない。全く違う存在として、生きていかねばならない。馬鹿なことをやりすぎると、こういうことになるのです。