男なら できぬなどとは 言へぬはず なせしことども すべて支払へ
*ああ、これは痛いですね。玄関先に借金取りが来て、今まさに言われていることのようだ。
耳をそろえて全部支払ってもらおうか。
あふちの木の入った美しい歌など歌ってもらえば、すぐにこんなのが来る。まあ、こういうのが男の世界というものだ。丁々発止で物事が進む。一たす一は二であって、百ではない。一億の借金も、値引きなど一文もない。利子は生じるかもしれないが。
男なら、どんな馬鹿でも、きっちり払わねばなりません。甘いことは言えません。なぜなら男は女性とは違う。自分が作った借金をきっちり全部払うことができるくらいの力は、みんな神に頂いているからです。
できることが、豆畑で働くくらいのことであっても、真面目にやっていけば、それはできることなのですよ。つらいことはいやだといって逃げるから馬鹿になる。嫌なことばかりやって逃げようとして、よけいに借金が膨らむ。
女性がいれば少し花を添えてくれて、ちょっとは待ってあげようとか、ずるいことをしてても少しは我慢してあげようとか、そんなことを思ってくれるものだが。男というものは、小さなことでも見過ごしません。馬鹿が痛いことをやっていれば、誰かが必ずそれを見つける。そしていうのですよ。
あなたはあのときこういうことをしましたね。いけませんよ。おかげでこういう料金が発生しています。全部払ってください。
男の世界はむごいのだ。どんな小さなことも見逃さず、金をふんだくろうとする。
身ぐるみはがれることなど、茶飯事です。
まあ、あなたがたが女性に見えないところで何をしているかを、自分でわかっていれば、自然にわかることでしょうが、女性がいなくなれば、この世界はこのように非常にむごくなる。計算ずくで動く男ばかりになれば、激しく生きることが苦しくなる。まるで水のない荒れ地に生きているようだ。花がどこにも咲いていない。
もっぱら法則の計算だけで動いているような男を、無条件の愛で支えてくれているのが、女性というものだ。そういう女性の愛というものがあるからこそ、男も勇を発して、痛いことができる。だが、そういう女性ばかりを馬鹿にするのが、馬鹿男というものです。本気でやれば、いい男にはかなわないから、弱い女性ばかり攻撃する。そんなことばかりしてきたら、とうとうすべての女性に逃げられる男になってしまう。
そういう男が行く世界が、まさにこんな世界だというものです。
自分のところに来るのは、借金取りの男だけ。銀の香炉だとか、あふちの木だとか、白梅の香だとか、そういう歌は一切詠わない。契約書にあるような、棒切れみたいにそっけない言葉を組んで、用件だけを言う歌しか詠わない。甲は乙から金を盗んだ。ゆえに甲は乙に…
金返せ。
男の世界のほとんど9割はこの5音の言葉だけで動きますね。俳句にもならない。何と悲しい世界でしょう。
あなたがたも、女性がいなければ、花や香炉や白珠の歌なんぞ、詠う気にもなれないでしょう。無味乾燥というか、あほらしいという感じです。契約書などというものは、万言を弄して事細かく書くものだが、全部読む人はまれです。書いてあることは要するに、金貸すから後で返せということなのだ。
まあ、頑張っていきなさい。もう、馬鹿な男はそこしか行くところがありませんから。