青桜 摺り衣をぞ 紗にかけて うつろにも似し 憂き世なりけり 葡萄式部
*今日は問題作をあげましょう。
この「青桜」という言葉が出てきたとき、ぞっとした人もいたのではないでしょうか。想像しただけで、何かが凍り付くような、正しいものがすべてだめになるような、そんな気がした人も多いのではないでしょうか。
青い薔薇なら何とかなる。仮定条件の中で存在する意味が生じる。
だが、青い桜とは。
そんなものがあったら、真実が一斉に消えてしまうような気がするのです。
「摺り衣(すりごろも)」とはヤマアイやツユクサなどで模様を擦りだした衣のことです。そんなものを紗にしてかけてしまうと、ものが見えなくなる。
青い桜などというものは、本来この世界ではありえないのです。なぜならこの世界は、そんなものとは全く違うものを基準にしてできているからです。
それをありえないものにしなければ、わたしたちが今住んでいる世界はとんでもないことになってしまうのです。
ですが、人間は、青い桜を作るようなことを、常にしているのですよ。
愛を馬鹿だというのがそういうことです。わかりますね。
愛が馬鹿であれば、この世界は存在できなくなるのです。すべてが馬鹿なことになり、何の意味もなくなるからです。人間はそういうことばかり言ってきて、この世界を壊し続けてきたのです。それをあらゆる愛の存在が支えてきた。
そして今、人間はとうとう、青い桜というものを知ったのです。いいですか、みなさん。青い桜というものは、あるのです。ただ、ここではありえないだけです。
あなたがたがその桜を見るということは、もうこの世界にはいられなくなったということなのです。
長い時をかけて、青桜の文様を擦りだしたころもを紗にかけるように、世界を馬鹿にしてきた、そんな虚ろな世界であったのだ。
人間はずっと、桜を青く染めるようなことばかりしてきたのです。