わたつみに 小鳥の声の 魚はゐて 星にうたへぬ 恋のうらみを
*これはスピカがウォルター・クレインの絵につけた歌です。あの絵付き短歌のシリーズはけっこう好評でしたよ。お楽しみいただけたようだ。何の反応もないように見えてね、あなたがたの心は丸見えなのです。一皮むけば、見えない返信リツイートが山のように積もっているんですよ。
それを表向き何もできないというのは、未熟以外のなにものでもありません。
ところで、ツイッターではいろいろと面白い言い回しをしていますね。さざき鍵とはみそさざいに住まわれて開けることができなくなった鍵のことだ。魚の声とは静けさのことです。で、時々歌っている、うぐひすの声持つ魚というのは、わかりますね。人魚のことです。
アンデルセンの童話の中に出てきた人魚姫は、すばらしく美しい声を持っていた。また他の伝説に出てくる人魚も、美しい声で歌を歌い、舟人をまどわすそうです。
人魚とか、水の精だとか、ローレライとかいうものは、男に欲望の対象とされ、捨てられた女性の亡霊の、変化したものです。オフィーリアの伝説にもあるようにね。女性は恋に破れると、よく水に身を投げて死んだのです。
そのまま水に溶けて泡となって消えてしまえばいいと思っていたらそうはいかない。まるで木霊のように、何かが海のかなたから帰って来ることがある。
「うたへぬ」は「歌へぬ」ではなくて、「訴へぬ」です。「うたふ(訴ふ)」は「うつたふ(訴ふ)」の促音省略形です。こういうのはほかにも「くす(屈す)」がありますね。「くっす」の省略形です。文字数が少なくなるので、歌作りには活用しましょう。
海の向こうに、小鳥のように美しい声をもつ人魚がいて、星に訴えてしまった。あの恋の恨みを。
どういう意味にとりましょう。スピカが歌をつけた絵には、琴を持った人魚の絵が描かれていました。王子を殺すことができずに、泡となって消えていった人魚姫が、とうとう帰ってきて、あの恋の恨みを歌い始めたということでしょうか。
あきらめるつもりだったけれど。人間の月への裏切りがあまりにひどいものだから。わたしも自分が悲しくなったと。そう言って、とうとう、海の向こうから、もう何千という人魚姫が目覚めてしまったのだ。
こう考えると、ちょっと恐ろしいですね。でも、あり得ないことではないのですよ。