
病室に1人。涙がじわーっと流れ落ちる。
カード挿入式のテレビは、NHK-BSPで1966年の日活映画
「愛と死の記録」をやっている。
主演は吉永小百合、相手役は先日亡くなった渡哲也である。
舞台は広島。楽器店店員の吉永と、印刷会社で働く被爆青年・渡の
純愛─悲恋物語だ。
互いに愛し合いながらも、最後は渡が原爆症で亡くなり、
吉永もまた後を追って自ら命を絶つ。
今ちょうど、救急車が吉永を運ぼうとしている場面なのである。
こんな純愛ものに、他愛もなく涙してしまう。
「ちちをかえせ ははをかえせ としよりをかえせ こどもをかえせ
わたしをかえせ わたしにつながる にんげんをかえせ
にんげんの にんげんのよのあるかぎり くずれぬ へいわをかえせ」

平和記念公園に設置されている峠三吉の有名な詩碑、
そして、あの原爆ドームなどもしばしば、この映画の場面に映し出される。
この映画は単なる純愛物語ではなく、
反戦・反核の意図をもって制作されたのかもしれない。
病室のベッドに腰を掛け、この映画を見ながら
明日の退院を待っている。
5月末に続き、今年2度目の入院。
前回は3度目の膀胱がん、今回はこれまた3度目の尿管結石。
縦9mm強、横5mmほどの米粒型の石が尿管に詰まっているのだ。
膀胱への出口のすぐ近くだから、自然に流れ落ちるのを期待したが、
奴はしぶとく、しっかり尿管を塞いだまま動かなかった。
そのため、左の腎臓が水膨れ、つまり水腎症となっており、
放っておくわけにいかずというわけだ。
レーザーの威力はさすがで、これを浴びせられた
石は粉々に砕かれ、5泊6日の入院を終えた。

この病院に入院したのは今度が5度目。それもすべて泌尿器科棟だ。
さすがに入院暮らしにはあきた。
病室で1人涙するなんてことは、もうないよう祈るとしよう。