もしも私が家を建てたなら
小さな家を建てたでしょう
大きな窓と小さなドアーと
部屋には古い暖炉があるのよ
真赤なバラと白いパンジー
子犬の横にはあなた あなた
あなたがいてほしい
それが私の夢だったのよ
いとしいあなたは今どこに
小坂明子の「あなた」という歌だ。
「一億総中流」と言った頃、1973(昭和48)年に発売されている。
まさに「総中流」を象徴するような歌詞。
あの頃の日本は1960年代の高度経済成長下、
68年にはGDPは世界第2位となり、
所得倍増計画が打ち出されたこともあり、国民の間に
「自分は中流階級だ」との意識が急速に強まっていた。
70年の国民意識調査では約9割、要するに
ほぼすべての国民がそう思っていたという。
実は、専門家によると国民の間にはそうした
「中流」意識がいまだに残っているのだそうだ。
ただ、かつてのように「総」というわけではなさそうで、
一方では80年代以降所得格差は急速に拡大し続けており、
いまや「格差社会」とまで言われている。
これに新型コロナウイルスの蔓延が追い打ちをかけている。
解雇、雇い止めといった深刻な事態が頻発しており、
それが格差拡大に拍車をかけているのである。
8日の日経平均株価は、90年8月以来30年6カ月ぶりに
2万9000円を突破し、2万9388円とバブル経済崩壊後の最高値をつけた。
喜ぶべきなのかどうか──このコロナ禍ではとてもそんな気にはなれない。
つい、かつてのバブル崩壊を連想してしまうのである。
このところ、70年代の歌がカバーされ、
テレビなどで盛んに歌われている。
「あなた」もそうだし、「喝采」(72年、ちあきなおみ)
「ロマンス」(75年、岩崎宏美)
「木綿のハンカチーフ」(同、太田裕美)
「化粧」(78年、中島みゆき)
「異邦人」(79年、久保田早紀)……。
やはり、「総中流」と思っていたあの頃が懐かしいのであろうか。