Toshiが行く

日記や趣味、エッセイなどで描く日々

ウブなあんちゃん

2021年02月16日 06時00分00秒 | 思い出の記
     小学、中学、大学とそれぞれになにがしかの
     思い出みたいなものがあるのに、
     なぜか高校時代には、すっぽり抜け落ちたように、
     それがない。
     だから名前と顔が一致して思い出せる同級生は片手ほどだ。
     その中でM君、彼とは何かにつけつるんでいたから、
     いちばん仲の良かった友人と言えるだろう。
     長崎港外の漁村に住み、何度か家に遊びに行ったこともある。

          

そのM君は高校を卒業すると、兵庫県三宮の会社に就職。
  こちらは大学受験に失敗し、浪人生となった。
    その1年後、2人とも19歳、未成年の時の話である。

浪人の甲斐あり、何とか大学受験がうまくいった。
あとは入学式を待つだけ。
春休みみたいなものである。
その休みを利用して、M君を三宮に訪ねたのだった。
当時、準急列車があり、
これで長崎から三宮までどれほどの時間がかかったろうか。
朝早くに出て、三宮に着いたのは午後も
半ばだったのではなかったか。
ほとんど立ちっ放しだったが、それほど疲れたという記憶はない。
もちろん、M君が出迎えてくれ、
そのまま神戸見物に連れて行ってくれた。
物見遊山を楽しむような年頃ではなかったから、
特に印象に残ったものはない。

          
     
      夕食は何を食べに行ったか、もちろん憶えていない。
      さて、ここからである。
      夜の街をぶらついていたら、
      M君が突然「よし、ここへ行こう」と指さしたのが、
      何とストリップ劇場だった。
      社会人の先輩であるM君はすでに何度か来ているらしい。
      だが、こちらは初めてである。
      ただ、不思議にもドキドキもしなかったし、
      舞台に目が釘付けになりもしなかった。

          

そんなに時間は経っていなかったと思う。
  それらしいお兄さんが、すっと横に立ち、
    「あんちゃんたち、ちょっとこっちへ来てくれや」
       と声をかけてきたのである。
結局、トイレに連れ込まれ
  「この写真買ってくれ。安くしとく。○百円でいい」
     とすごまれ、何の抵抗も出来ず、
       写真を手にすごすごと劇場を出たのだった。

                    

すると、M君が「どこに泊まろうか」と言い出した。
てっきり、会社の寮か何かに泊めてくれるものと
思っていたが、違ったらしい。
それから宿探しとなってしまった。
そして、M君が「よし、ここにしよう」と言った。
ガラガラと戸を開け入ると、
応対に出たおばさんが怪訝な顔をしている。
それでも「どうぞ」と部屋に案内してくれた。
そこには、見たこともない大きなベッドがどんと一つ。

         この宿は今風に言えばラブホテル、
      その頃だと連れ込み宿だったのだと分かるように
      なったのはずっと後のことだ。
      だから、おばさんが男2人連れの客に
      怪訝な顔をしたのだろうし、
      ダブルベッド一つあっただけだったのだろう。
      そんな世事を知る由もないウブな
      未成年者だったというわけである。
      先ほど買わされた写真を見ても
      何が何だかチンプンカンプン。
      それが分かるようになったのも、
      ずっと後のこと……。

          

翌日はロープウェーで六甲山に登った後、
  長崎への帰路に着いた。
    帰りもやはり準急だった。
      ただ、三宮を出て間もなく座ることが出来たので、
昨夜の小さな冒険を思い出しながら、
  ことりと夢の中に落ちた。
    長崎は終点、案ずることなく熟睡したのだった。

         高校の友人との唯一と言える思い出話である。
       こんな思い出しか出てこないのは、やはり寂しいものだ。