2人の娘は、幾つになったろうか。
長女には今春晴れて社会人となった女の子と、
大学4年生の男の子がいる。
次女の方には大学生になり立ての一人娘。
何歳と言わなくとも、2人とも立派なおばちゃんである。

それほどの年齢だから、もうとっくに「親離れ」しており、
自分たちの世界を築いている。
対する親の方はなかなか「子離れ」できず、
そんな親心に任せて子どもの世界に迂闊に立ち入ろうものなら
鬱陶しがられ、時には冷たくあしらわれて寂しい思いをさせられる。
特に男親は哀れなもので、
そんな年齢になった娘に対する術を見つけきれないのが常だ。
2人とも福岡市内に在住しており、
車だと30、40分で行き来できるのだが、
格別な用事がなければ会うことはほとんどない。

対して母親。
「親離れ」している娘に対し、「女同士」という武器を使う。
たとえば、買い物へ行くと、野菜や肉、魚といった総菜類を
「えらく多く買うな」と思ったら、
何のことはない娘たちの分まで買っているのだ。
そして、「○○があるよ。いるなら持って行こうか」と電話する。
娘たちも主婦なのだから、
少しでも家計の足しになるとあれば、むげには断らない。
娘たちに会いたいがための母親なりの手口に違いなく、
男親は内心にやにやしながら、
妻と食材を乗せ、娘宅へ急ぐことになる。
この日も同様の手口で野菜類、
それに乃が美の高級食パンを長女宅へ届けた。
長女は自宅でネット通販会社を営んでおり、
妹である次女がそれを手伝っている。
親にすると、姉妹が仲良く一緒に
仕事をしている姿を見るのは何よりのことである。
ちょうど昼時、久し振りに親娘4人が買ってきたパンをかじり、
コーヒーを飲みがら談笑した。

会話はやはり家計のこと、子どものことになる。
利殖の話になると、母親がちょっとした指南役となり、
何かとアドバイスする。
女3人の会話に男親はなかなか割り込めない。
「まあ、いいか」
娘たちがつつがなく暮らしてくれれば言うことはない。
1時間半ほど──何物にも代えがたい心和む時であった。
もう一度、「まあ、いいか」