幅が3㍍ほどしかない信号機付設の小さな横断歩道。
両側に合わせて5、6人ほどの人が
青信号に変わるのを待っている。
そこへ中年の男性がやって来て、
左右車が来ていないのを確かめると、
信号が変わるのを待たず、スタスタと渡って行った。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/24/20/2187a8257513f85f903cb0b9bd204f1b.jpg)
よく、〝世渡り上手〟という。
持ち前の要領の良さとコミュニケーション力で、
世間でも会社でも人間関係に苦労することなく、
楽々やっていける。
また、物事に対する優先順位を付けるのが上手で、
今何をすればよいか瞬時に判断して取り組む。
普通、このような人を指す。
周辺にも結構たくさんいる。
件の〝信号無視氏〟もそのような人で、
あるいは会社においては要職にある人なのかもしれない。
「何の危険もない。誰にも迷惑をかけない。
そうであれば、青信号に変わるのを待つのは時間の無駄。
そんなわずかな時間を他の意義のあることに使った方が、
世の中とまでは言わないが、たとえば自身の仕事を
効率的に進めることに役立つのではないか」
そう言われれば、「なるほど」と頭を下げるだけで
非難の言葉は投げにくい。そうは思う。
だが、どこか割り切れなさが残るのも確かだ。
そんな要領の良さに馴染めない、
どこか反発したくなる不器用さのせいなのかもしれない。
テレビドラマでの話である。
ある出版社の社長が、夜更けの交差点で信号待ちをしていた。
右を見ても左を見ても車一台見当たらない。
渡ろうと思えば、何の危険もなく渡れるはずだ。
だが、その社長は信号が変わるのをじっと待っていた。
そんな様子をたまたま見かけた社員が翌朝、
「渡ろうと思えば渡れたはずなのに、
なぜ渡らなかったのか」尋ねた。
それに対する社長の返答は、たった一言だった。
「徳を積んでいるのだよ」
いまだによく理解できないでいるのだが、
心のどこかにわずかばかりの共感を覚えるのである。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/22/79/c44a592056288a3def3c0e0921e0f2bd.jpg)
もし自分に幼い子がいたら、どう教えるか。こうに違いない。
「たとえ小さな横断歩道でも、信号機があるのであれば、
信号が青に変わるまでしっかり待って渡りなさい」