Toshiが行く

日記や趣味、エッセイなどで描く日々

悲しい酒

2020年04月19日 06時00分55秒 | 思い出の記
1960年代には、曲名に『悲しき』と付けたものが、やたら多い。
特に洋楽。『悲しき足音』(60年)『悲しき街角』『悲しき片思い』(61年)
『悲しき雨音』(62年)『悲しき願い』(64年)『悲しき鉄道員』(70年)……
挙げればきりがないほどたくさんある。
                          
   ビートルズが登場する直前の、主にアメリカンポップスがそうだった。
   歌詞をつぶさに見れば、さまざまな悲しさがあるのは確かだが、
   原曲のタイトルには『悲しき』などという言葉は見当たらないし、
   おまけにメロディーは弾み、ポップでリズミカルなビートの曲がほとんどで、
   とても悲しい情感など伝わってはこない。
   どうやら、たまたま曲名に『悲しき』と付けたところ、ヒットしたものだから、
   味をしめた音楽業界が商魂をたくましくして戦略化してしまったらしい。
   何とも他愛のない話なのだ。

そんな理屈はともかく、青春真っ盛りということもあり、
ポップスをよく聞き、口ずさみしたものだ。
このアメリカンポップスに取って代わったのがビートルズで、
彼らはたちまち全世界を席巻し、僕なぞへろへろにされてしまった。
            
   そんなところへ『悲しき』ポップスを蹴散らし、
   ビートルズさえしばし忘れさせた日本の歌が登場した。
   美空ひばりの『悲しい酒』である。
   66年だから、僕は大学を卒業し、ほやほやの社会人一年生の時である。
   ジャンルもまるっきり違うし、細かくには『悲しき』と『悲しい』の違いもある。
   だが、ポップスのそれが一種の、まさに流行なのに対し、
   美空ひばりの、この歌はなんとも言えぬ本物の悲しさを感じさせた。
   「ひとり酒場で飲む酒は……」なんて涙ながら歌う
   情感が分かろうはずもない年ごろ。
   なのに、駆け出しの若造の胸にさえ哀歓が突き刺さり、
   「あー、俺は日本人なのだ」と思い知らされた。
   ビートルズをしばし忘れさせるほどに、『悲しい酒』には泣かされた。
   ほとほと参った。
                             

どんな巡り合わせなのか、美空ひばりの初のヒット曲は
何と『悲しき口笛』である。
初めて主演した同名映画の主題歌であり
終戦間もない混乱期にあった1949年のことだった。
映画だったのか、それともポスターを見てのことだったのか、
12歳だった美空ひばりがシルクハットに燕尾服で
歌う姿をかすかながら覚えている。
              
   悲しくも……美空ひばりが亡くなって、もう31年にもなる。


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2 コメント

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Unknown (ゆっくん)
2020-04-19 15:30:02
こんにちは、
はじめまして
懐かしい曲名を見てコメントします。
悲しき雨音、カズケーズ  悲しき鉄道員 ショッキング・ブルー 当時ラジオの番組に、電話リクエストに、一生懸命電話したのを思い出しました、美空ひばりさんが亡くなられて31年なのですね。出張先で、大きな仕事が、済んでホテルに帰ったらその話題だったのを覚えています。
やはり、オールディーズが、良いですね。😁
懐かしくて、コメントさせて頂きました。
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悲しかったな… (ミルク)
2020-04-20 09:55:39
相方が突然亡くなって、何年かあとに「悲しい酒」をテレビで聞いた時に、ボロボロに泣いてしまいました。
死を受け入れられずに、あまり涙も出せなかったが
この歌を聞いていたら、どっと涙が出て
心に溜めていたものが、涙で浄化されたようでした。
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