あれからもう20数年。
あの日のことを思い出せば、今でも涙が出そうになる。
妻と向かい合っての夕食。
2人とも何かを思う風に一言もせず、箸の動きも鈍い。
そんな重苦しいような空気を妻が破った。
「やはり、迎えに行きましょう」
思いは同じだった。
「急ごう」僕も箸を投げ出すように、車のキーを握った。
まだ2歳にもならない僕らの初孫、可愛くてたまらない女の子。
その子に間もなく弟が出来る。
僕らの長女である母親は、そのため入院中だし、
父親も長期の出張中とあって、この子は独りぼっちで
祖父母との生活を強いられていた。
ある日、親しくしている知人宅に遊びに連れて行った。
その家には、少し年上の女の子がいて結構遊び相手になってくれ
本人も楽しそうだった。
その姿を見てからか、知人が「泊めたらどうか」と言い出した。
「どうしよう」とためらった。
「大丈夫だろうか」との思いの中には、
一晩だけと言っても孫を手放す寂しさがあったのである。
でも、楽しそうにしている姿に負けた。
この子をおいて帰宅したのだった。
「迎えに」車に飛び乗り夜道を急いだ。
知人宅に着き「おーい、おいで。帰るよ」と呼びかけると、
笑顔いっぱいで飛んできた。
妻が抱き上げ、僕は友人に礼を言うのもそこそこに
今度は我が家への道を急いだのである。
そして、いつものようにこの子を真ん中にして寝床に入った。
この子の小さな親指は小っちゃなお口にあった。
クチュクチュとさせながら懸命に眠ろうとしている。
でも、目は閉じていてもなかなか寝付かない。
そんな様子を見て、ひどく切なくなった。
この子はきっと寂しいのだろう。
「いつもはママとパパに包まられるようにして寝るのに、二人ともいない。
でも私が泣けばじぃじとばぁばが悲しむだろう。だから私は泣かない。
親指をママとパパと思って我慢しよう」
まだ2歳にもならない幼い子。
独りぼっちの寂しさに一生懸命耐えようとしている。
そんな風に見え、思わず涙がポロリと流れ落ちた。
あの日以来、この子が泣いている姿を見たことがない。
さらに私を思う母にまで心が飛んでいます。
ありがとうございました。