【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

捨て身の首相?/『ザ・テラー(上)』

2008-12-10 18:48:11 | Weblog
 もしかして麻生さんは「ここでできるだけワルモノになっておけば、次の首相がその反動で高支持率となってやりやすくなる」なんてことを思っているのかな、なんてことまで考えてしまいました。あまりにやっていることが捨て鉢に見えるものですから。
 ……そこまでの計算ができる人なら、最初からこんな窮地には陥らないか。

【ただいま読書中】
ザ・テラー ──極北の恐怖(上)』ダン・シモンズ 著、 嶋田洋一 訳、 早川書房(ハヤカワ文庫NV)、2007年、980円(税別)
 19世紀半ば、冬が近い北極海を探険する二隻の軍艦「エレバス」と「テラー」。初っぱなから描かれる、隊員たちを脅かす想像を絶する極寒と正体のしれぬ“怪物”……とくれば、私がまず想起するのは、フランケンシュタインの怪物です。さて、そんな予想が当たるのかどうか、しばらくは氷の海をさ迷うことにいたしましょう。
 「サイレンス」と呼ばれるエスキモーの少女は、舌が切り取られています。「靴を食った男」もいます。二隻の軍艦(機帆船の砕氷船)は、10ヶ月は氷に閉じこめられ、“夏”の2ヶ月だけかろうじて大西洋から太平洋に抜ける北西航路を探して動くことができます。出発して二冬め、氷に閉じこめられた「テラー」になにものかが忍び寄ります。最初は氷にトンネルを穿って船腹を破ろうとし、ついで見張り員がつぎつぎ襲われます。攫われ殺され二人の半分ずつの死体を組み合わせて戻されて……ホッキョクグマより巨大で邪悪な知性を持つ白い肉食獣です。
 「今」と「過去」の細かいカットバックが積み重ねられ、少しずつ「怪物」と探検隊の運命が明らかになってきます。さらに、突然現れたエスキモーの少女サイレンスはどこから来たのか・なぜ舌を根本から咬みちぎられているのか、伝説で語られる北極大陸や年中凍らない北極洋は実在するのか、さまざまな魅力的な謎が提示されますが、著者は悠々と話を進め、なかなか全貌が明らかになりません。そもそも探検隊自体が冬ごもりの最中で動いてくれないのですが。

 本書には哀れな登場人物が多いのですが、特に哀れなのは隊長のサー・ジョンと私は感じました。これまでにも十分以上に不幸な人生を送ってきた人ですが、プライドはあるが能力がないという、順調な時はともかく困難な事態では最悪の指揮官で、おかげで探検隊は不必要な危険を抱え込むことになってしまいます。粗悪な製法で半分は腐っている缶詰や極寒や壊血病など、それでなくても十分事態は困難なのに。そしてその殺され方……まったくお気の毒としかいいようがありません。

 1970年代はじめに読んだ『極限の民族』(本多勝一)を思い出しました。イヌイット(エスキモー)の生活がいかに氷上に特化して合理的にできているか、に驚きましたっけ(合理的にできていなければその民族は死滅しているはずですけれど)。本書でもそういった彼らの生活の一部が具体的に紹介されますが、読んでいるうちに北極の寒さがだんだんこちらの身にも浸みてきて、背骨がつららになってしまったような気がします。寒い寒い怖い怖い。