平成の大合併とやらの影響で、実は私は、自分の県にいくつの市があるのかわからなくなっています。いや、一応覚えたのですが、忘れちゃうの。聞き慣れない地名を聞くと、ついつい「それは昔で言うと、どこ?」と聞いてしまいます。昔の地名はあまり気楽に変えて欲しくないなあ。
【ただいま読書中】『地名の語源が意味する 地すべり危険地帯』小川豊 著、 山海堂、1998年、1600円(税別)
日本中に「地すべり危険地帯」があります。古来地すべりを繰り返しているので、人々はそこに「地名」をつけました。問題は、古語であって意味が現代では取りにくくなったり、訛りによって変化したり、一見無害な漢字が当てられることで誤解を生じたりしていることです。
本書では、日本各地の地すべり地帯の、歴史と地質構造や地すべり対策(実際に行なわれた工事)、そしてその地名の由来とを記しています。意外な地名が地すべりを表していて、面白く読めます。
たとえば古語の「憂し(うし)」は不安定を意味します。「砂地」も表しますがこれは「揺れる(ゆさぶる)地」→締まりの悪い砂地、という連想と著者は推測をしています。で、「うし」が「うさ」や「うす」に訛ります。そこに「処」を意味する「ギ」がつくと「うさぎ」。新潟県松之山町では500年前と270年前に地すべりがあった記録があります。昭和37年の地すべりは災害救助法が適用されるくらい大規模なものでしたがその時の地すべりは「兎口(「うさぎ」への入り口)」から発生しました。「憂し」に「ダケ」がつく場合もあります。滝(不安定な傾斜地)→タケ→ダケ、の転訛で、これは徳島県神山町の臼嶽(うすだけ)です。ここも豪雨のたびに地すべりが発生する地域です。
土地が侵食されている様は、エビ・亀などと表現されます。あまりめでたくないのですね。全国にある「茶臼山」も侵食です。古語の「チョウス(打つ、たたく)」は侵食を意味し、それが転訛して「チャウス」。本書には日本全国23箇所の「茶臼山」「茶臼岳」が載っていますが、そのほとんどに地すべりや断層・活断層が見られるそうです。
福島県大沼郡の倉掛では、「倉」は「刳(く)る」の転訛で意味はえぐられた岸壁や谷。「かけ」は「欠ける」で決壊・崩壊。実際に大規模な地すべりの跡があるそうです。「刳る」は「くるみ」にも姿を変えます。「み」は「水、海、廻(入り込んだ地形)、身(土地のこと)」。つまり「胡桃」という地名は「土地がえぐられるところ」となります。なお「くる」が「くら・くり・くる・くれ・くろ」に転訛することもあるそうです。「黒○○」なんて地名があったら、色ではなくて地形をよく見た方が良さそうです。
願望地名もあります。徳島県西祖谷山村の「善徳」ですが、土地がすべらず善い徳がありますように、という住民の願いが込められているのだそうです。
意外なのは、方角地名ではない「西」「東」にも地すべりがあること。「躙(にじ)る(踏みにじる、と今では普通使います)」が転訛したら「にし」になりますが、崩壊地名です。「皹(ひび)」+「かし(傾ぐ)」→「ひがし」に当て字した「東」は、やはり崩壊・侵食地名です。もちろん純粋に方角の東西もありますから、ややこしい。
「平」もややこしい。「平ら」の意味ももちろんありますが、「崖、急な崖、傾斜、坂」をしめす「ひら」もあるのだそうです。これで有名なのは、全国でも有数の破砕帯地すべり地帯に属する、徳島県東祖谷山村菅生平谷です。まあそもそも平坦だったら「谷」ではないですよね。
「日浦」には「陽当たりの良い日浦」と「陽当たりの悪い日浦」があります。これまた注意が必要ですね。「ひ」は「陽当たり」だけではなくて「ひび割れ、亀裂」の意味もあり、「うら」は「浦」「裏」「(幹や元に対する)末(うら)」の意味があります。となると、陽当たりが悪い日浦や亀裂のある側の日浦もあるわけ。
「やしき」も「誰それのお屋敷があったから」という場合もあるでしょうが、地すべりの場合も。「や」は「岩、谷、傾斜地、湿地」で、「しき」は「鋤」の転訛で「削る、剝く」。なお、「集落」の意味で「やしき」と言う場合もあるそうです。
いやあ、日本語ってむずかしい。自分がいかに古語を知らないかがわかって恥ずかしい。ついでに、なんとなく「地すべりは怖い」と思っていても、日本にこれだけ危険地帯があって、ちゃんと先人が名付けていてくれているのにその情報をちゃんと把握していない自分が恥ずかしい。今の家に住む前に本書を読むべきでした。まあ、地名で見る限り大丈夫そうではありますが。
人気ブログランキングに参加しています。応援クリックをお願いします。
【ただいま読書中】『地名の語源が意味する 地すべり危険地帯』小川豊 著、 山海堂、1998年、1600円(税別)
日本中に「地すべり危険地帯」があります。古来地すべりを繰り返しているので、人々はそこに「地名」をつけました。問題は、古語であって意味が現代では取りにくくなったり、訛りによって変化したり、一見無害な漢字が当てられることで誤解を生じたりしていることです。
本書では、日本各地の地すべり地帯の、歴史と地質構造や地すべり対策(実際に行なわれた工事)、そしてその地名の由来とを記しています。意外な地名が地すべりを表していて、面白く読めます。
たとえば古語の「憂し(うし)」は不安定を意味します。「砂地」も表しますがこれは「揺れる(ゆさぶる)地」→締まりの悪い砂地、という連想と著者は推測をしています。で、「うし」が「うさ」や「うす」に訛ります。そこに「処」を意味する「ギ」がつくと「うさぎ」。新潟県松之山町では500年前と270年前に地すべりがあった記録があります。昭和37年の地すべりは災害救助法が適用されるくらい大規模なものでしたがその時の地すべりは「兎口(「うさぎ」への入り口)」から発生しました。「憂し」に「ダケ」がつく場合もあります。滝(不安定な傾斜地)→タケ→ダケ、の転訛で、これは徳島県神山町の臼嶽(うすだけ)です。ここも豪雨のたびに地すべりが発生する地域です。
土地が侵食されている様は、エビ・亀などと表現されます。あまりめでたくないのですね。全国にある「茶臼山」も侵食です。古語の「チョウス(打つ、たたく)」は侵食を意味し、それが転訛して「チャウス」。本書には日本全国23箇所の「茶臼山」「茶臼岳」が載っていますが、そのほとんどに地すべりや断層・活断層が見られるそうです。
福島県大沼郡の倉掛では、「倉」は「刳(く)る」の転訛で意味はえぐられた岸壁や谷。「かけ」は「欠ける」で決壊・崩壊。実際に大規模な地すべりの跡があるそうです。「刳る」は「くるみ」にも姿を変えます。「み」は「水、海、廻(入り込んだ地形)、身(土地のこと)」。つまり「胡桃」という地名は「土地がえぐられるところ」となります。なお「くる」が「くら・くり・くる・くれ・くろ」に転訛することもあるそうです。「黒○○」なんて地名があったら、色ではなくて地形をよく見た方が良さそうです。
願望地名もあります。徳島県西祖谷山村の「善徳」ですが、土地がすべらず善い徳がありますように、という住民の願いが込められているのだそうです。
意外なのは、方角地名ではない「西」「東」にも地すべりがあること。「躙(にじ)る(踏みにじる、と今では普通使います)」が転訛したら「にし」になりますが、崩壊地名です。「皹(ひび)」+「かし(傾ぐ)」→「ひがし」に当て字した「東」は、やはり崩壊・侵食地名です。もちろん純粋に方角の東西もありますから、ややこしい。
「平」もややこしい。「平ら」の意味ももちろんありますが、「崖、急な崖、傾斜、坂」をしめす「ひら」もあるのだそうです。これで有名なのは、全国でも有数の破砕帯地すべり地帯に属する、徳島県東祖谷山村菅生平谷です。まあそもそも平坦だったら「谷」ではないですよね。
「日浦」には「陽当たりの良い日浦」と「陽当たりの悪い日浦」があります。これまた注意が必要ですね。「ひ」は「陽当たり」だけではなくて「ひび割れ、亀裂」の意味もあり、「うら」は「浦」「裏」「(幹や元に対する)末(うら)」の意味があります。となると、陽当たりが悪い日浦や亀裂のある側の日浦もあるわけ。
「やしき」も「誰それのお屋敷があったから」という場合もあるでしょうが、地すべりの場合も。「や」は「岩、谷、傾斜地、湿地」で、「しき」は「鋤」の転訛で「削る、剝く」。なお、「集落」の意味で「やしき」と言う場合もあるそうです。
いやあ、日本語ってむずかしい。自分がいかに古語を知らないかがわかって恥ずかしい。ついでに、なんとなく「地すべりは怖い」と思っていても、日本にこれだけ危険地帯があって、ちゃんと先人が名付けていてくれているのにその情報をちゃんと把握していない自分が恥ずかしい。今の家に住む前に本書を読むべきでした。まあ、地名で見る限り大丈夫そうではありますが。
人気ブログランキングに参加しています。応援クリックをお願いします。