【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

影を見る

2010-09-11 18:14:30 | Weblog
「大衆は衆愚」と言う人と、「大衆は信頼できる人たちだ」と言う人と、どこが違うのでしょうか。「大衆」は同じものですから「言う人」が違うのでしょうね。もしかしたら「衆愚だ」と言う人は「(自分を含めた)人は愚かだ」という確信を持っていて、それを自分の中ではなくて外に投影している、ということなのかな。

【ただいま読書中】『歩く』ルイス・サッカー 著、 金原瑞人・西田登 訳、 講談社、2007年、1600円(税別)

映画館でのポップコーンが原因で傷害事件を起こし、矯正施設のグリーン・レイクという、からからに干上がった湖の底で14ヶ月も穴掘りをしていたアームピット(黒人)は、生まれ変わろうと、高校に通いながら穴掘りのバイトをしています。アームピットは隣の家のジニー(白人、脳性麻痺)と仲良くなり、二人はお互いに支え合って生きていくようになっていました。
そこに現われたのがX・レイという悪友。いかにもあやしげなもうけ話(ダフ屋もどきの“仕事”)を持ち込み、ことば巧みにアームピットの貯金を巻き上げようとします。「エ、エ、X・レイの話なんか、し、し、信じちゃだめ」というジニーの忠告も聞かず、アームピットは深みにはまっていきます。
「もうそのへんで降りろよ」と私もアームピットに本のこちらから忠告をしたくなります。そもそもX・レイの話にのるべきではなかったのだし、一度乗っても、最後の最悪の結果に行き着く前に損害を最小限にして途中下車をするべきなのです。だけど、話は粛々と進んでいきます。
幸か不幸か、ダフ屋稼業は順調に行き、アームピットは金を取り戻せます。そして残った2枚のチケットでアームピットはジニーとコンサートに出かけます。今売り出し中のロックスター、カイラのコンサートへ。しかしそこで二人はトラブルに巻き込まれ、アームピットは逮捕されかけます。しかしそこから運命が急転。それもとんでもない激変。この進展は想像もできませんでした。いや、何かやってくれるとは思ったのですが、こっちの方にもっていくとはねえ。話は犯罪小説(の一種)から突然青春小説になってしまうのです。私はもう笑い転げます。
ただし、「犯罪小説(の一種)」が終わったわけではありません。X・レイは警察に呼ばれます。彼が白状したら、アームピットも“共犯”として逮捕されます。なにしろ金を出しともに行動していたのですから。未来への希望と不安、アームピットはその両方に翻弄されます。
アームピットは、ときにあまり考えずに返事をしてしまうことがあります。259ページでもそれをやってしまうのですが……「うん、いいよ」……それでまたとんでもない方向に話が。私はもう笑いが止まりません。ただ、私の笑いはぴたりと止まります。アームピットは知らないうちに、恐ろしい陰謀にも巻き込まれてしまっていたのです。さて、彼はどうなるのか。「嘆きの乙女」の運命は。
そしてお話は、はらはらどきどきと笑いとがたっぷり盛り込まれたおとぎ話(の一種)にもなり、ジェットコースターのように進んでいきます。読者はそこからふり落とされないように、ご注意!