ラーメン屋で食べていたら、少し離れたところの若者グループの話が耳に入ってきました。傍若無人にしゃべっているから店内の全員が聞くことができただけですが。でまあ「○○君」やら「××ちゃん」やらの行状についていろいろ興味深いことが開陳されていたのですが、そのうち話が突然もやしに。唐突に「あたし、もやし、きらい」という宣言がされたのです。ところが周囲は反応なし。せっかくの宣言が無視されたのがお気に召さなかったのか、発言はエスカレートします。いかにもやしがしょうもない存在であるかそんなものを食べたらいかに人間がダメになるか、についてのご高説が展開されます。
しかしねえ、もやし農家の人がすぐそばにいる可能性とか、ここの店主がラーメンに入れるもやしを厳選している可能性とかを考えないのかなあ、と私は思ってしまいましたよ。さらに言うなら、ここはラーメン屋、メニューに「もやしラーメン」がございます。そういえば少し向こうの席の人、さっきもやしラーメンを注文してませんでしたっけ?
【ただいま読書中】『タイム・パトロール』ポール・アンダースン 著、 深町真理子 訳、 早川書房、1971年
求人広告で本書は始まります。笑っちゃいますよね。タイム・パトロール隊員を「求人。21歳~40歳の男子。なるべく独身。軍隊もしくは技術者としての経歴を有する身体頑健者。海外出張を含む業務で、高給保証」という広告で募集ですよ。もちろん読者はワクワクしながらそのオフィスの扉を開けるわけです。1960年代の読者だったら、タイトルとこの求人広告で、どんな“新しい物語”に出会えるのだろうと期待で心がはち切れそうだったはずです。
冒険をしたくてふらりと応募したエヴァラートはめでたく採用。訓練と教育の後めでたくタイム・パトロール隊員としての勤務を始めます。初っ端は、ヴィクトリア時代。紀元前のサクソン人の古墳から出てきた箱に密閉されていた「毒の金属」が貴族をあっという間に殺したのです。これは放射性物質だ。エヴァラートは直感し、さっそく調査を開始します。現場にいたのは敏腕の私立探偵。名前は名乗りませんが、どう見てもシャーロック・ホームズです。いやもう、著者は遊んでいます。
歴史改変で面白かったのは、アケメネス朝ペルシアの祖キュロスの物語です。あろうことか現代人がキュロスに成り代わってその偉業を行なってしまいそうになり、そこにタイムパトロールが関与して、というか自らいろいろやっちゃって……最後に「わが家」に帰ってきた隊員の感想が笑わせてくれます。古風なタイプの女性は笑えないかもしれませんが。
クビライ・カンが派遣した探検隊がアメリカ大陸を発見、というビッグ・ニュースも飛び込んできます。これは違法なタイムトラベラーが関与しているにちがいない、とパトロールは調査をしますが、そんな証拠は一切ありません。さらに、タイム・パトロールを統括している超未来人から、納得しがたい指令が……
明白な歴史改変事件もあります。古代ローマ時代を持たない、ケルト人に支配された世界に急に歴史が書き換えられてしまったのです。そこに偶然飛び込んでしまったエヴァラートは装備を一切没収されと囚われの身となり、かろうじて通じることば(古代ギリシア語)と己の才覚だけを武器に戦いを開始します。そこで浮かび上がってきたのは、ハンニバルとスキピオ。“たかがSF”を読むのに、広範な歴史の知識が必要になるとは、当時は思いませんでしたっけ。“入り口”は何であれ、歴史の面白さを知る人間が増えることは良いことではありますが。
しかしねえ、もやし農家の人がすぐそばにいる可能性とか、ここの店主がラーメンに入れるもやしを厳選している可能性とかを考えないのかなあ、と私は思ってしまいましたよ。さらに言うなら、ここはラーメン屋、メニューに「もやしラーメン」がございます。そういえば少し向こうの席の人、さっきもやしラーメンを注文してませんでしたっけ?
【ただいま読書中】『タイム・パトロール』ポール・アンダースン 著、 深町真理子 訳、 早川書房、1971年
求人広告で本書は始まります。笑っちゃいますよね。タイム・パトロール隊員を「求人。21歳~40歳の男子。なるべく独身。軍隊もしくは技術者としての経歴を有する身体頑健者。海外出張を含む業務で、高給保証」という広告で募集ですよ。もちろん読者はワクワクしながらそのオフィスの扉を開けるわけです。1960年代の読者だったら、タイトルとこの求人広告で、どんな“新しい物語”に出会えるのだろうと期待で心がはち切れそうだったはずです。
冒険をしたくてふらりと応募したエヴァラートはめでたく採用。訓練と教育の後めでたくタイム・パトロール隊員としての勤務を始めます。初っ端は、ヴィクトリア時代。紀元前のサクソン人の古墳から出てきた箱に密閉されていた「毒の金属」が貴族をあっという間に殺したのです。これは放射性物質だ。エヴァラートは直感し、さっそく調査を開始します。現場にいたのは敏腕の私立探偵。名前は名乗りませんが、どう見てもシャーロック・ホームズです。いやもう、著者は遊んでいます。
歴史改変で面白かったのは、アケメネス朝ペルシアの祖キュロスの物語です。あろうことか現代人がキュロスに成り代わってその偉業を行なってしまいそうになり、そこにタイムパトロールが関与して、というか自らいろいろやっちゃって……最後に「わが家」に帰ってきた隊員の感想が笑わせてくれます。古風なタイプの女性は笑えないかもしれませんが。
クビライ・カンが派遣した探検隊がアメリカ大陸を発見、というビッグ・ニュースも飛び込んできます。これは違法なタイムトラベラーが関与しているにちがいない、とパトロールは調査をしますが、そんな証拠は一切ありません。さらに、タイム・パトロールを統括している超未来人から、納得しがたい指令が……
明白な歴史改変事件もあります。古代ローマ時代を持たない、ケルト人に支配された世界に急に歴史が書き換えられてしまったのです。そこに偶然飛び込んでしまったエヴァラートは装備を一切没収されと囚われの身となり、かろうじて通じることば(古代ギリシア語)と己の才覚だけを武器に戦いを開始します。そこで浮かび上がってきたのは、ハンニバルとスキピオ。“たかがSF”を読むのに、広範な歴史の知識が必要になるとは、当時は思いませんでしたっけ。“入り口”は何であれ、歴史の面白さを知る人間が増えることは良いことではありますが。