【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

注目

2011-02-20 18:06:10 | Weblog
マスコミはよく「世界中が注目しています」なんて言い方をしますが(最近だったらエジプト革命とかその後のイスラム世界関連のニュースとかで)、その「注目」だけで何かが劇的に変わったことって、どのくらいありましたっけ?

【ただいま読書中】『ボリビア移民の真実』寺神戸嚝 著、 芙蓉書房出版、2009年、1900円(税別)

1959年、財団法人日本海外協会連合会(JICAの前々身)の職員だった著者(当時26歳)は、移民の営農支援のためにサンファンに着任し、6年半在勤しました。
サンファン入植地は、サンタクルス市から130km。移民たちは荷物を牛車に積み徒歩で移動しました。もちろん道は未舗装で、川には橋はありません。さらに、サンファン地区内には(事前の説明に相違して)道そのものがありません。「約束が違う」と怒る移民たちに、日本政府は「測量はする。道路は自分たちで造れ。緊急融資で金は貸す。ちゃんと返せ」と。
日本の役所では「移民」ではなくて「海外移住者」と呼ぶそうです。「者」が「移住」を決断したのですから、その決断の結果については自己責任だ、と。ただ、海外で農業をする訓練もなし、生活に関する情報提供もなし、販路開拓もなし、ではさすがに気が引けたのか、「海外移住」再開後3年経ってから、外務省の外郭団体である日本海外協会連合会に、新卒農学士を8人採用させます。それで採用された著者は「研修」で「そのへんの本でも読んでおいて」と指示されます。さらに、毎週土曜日に東大の農学部で熱帯農業の講座が受けられました。それでめでたく「外地要員」の誕生です。
日本政府がいかに「移民」に興味がなかったか、よくわかります。現地の状況も調べずとにかく移民を送り出し、悲鳴が聞こえてきてから「調査」を始めるのですから。それも自分でやるのではなくて外郭団体にお任せで。(これはボリビアだけの話ではありません。同時期のドミニカ移民の裁判(日本政府のやり口がひどすぎる、という訴え)が、2006年に判決が出たのを覚えている人は多いはずです)
移民が住むのは掘っ立て小屋。ジャングルは強い酸性土壌のため焼き畑農業ですが、切り開いた頃に雨期になります。日本では考えられないほどの強い雨が降り続き、農業はできません。著者は営農に関する「責任者」として苦闘しますが、それに余分な圧力を加えるのが、政治家や官僚が唱える「自説」「机上の空論」です。本書にもとんでもない言動をする国会議員や高級官僚が実名で登場しますが、もの知らずで自信たっぷりの権力者って、有害無益な存在であることがよくわかります。さらに、入植者の現状よりは自分の昼食の心配をしているらしい“視察者”、宗教(「S学会」ですって……)の目に余る折伏運動。暴力事件、殺人事件…… 著者の苦労は絶え間がありません。
日本政府がどのくらい自国の国民に対して興味を持っているのかを知りたかったら、その“参考書”として役に立ちそうな本です。お役所の無責任ぶりは、そのへんの不条理ギャグマンガを突き抜けていますよ。