【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

上下

2012-04-02 18:39:26 | Weblog

 先日読んだ海音寺潮五郎の『平将門』は、各巻それぞれ600ページ以上ある大部でした。で、図書館から上下巻を借りて帰って、上巻を読み終えたからさて下巻一気に行くぞ、と読み始めたら、話がつながらない。調べると「中巻」がある、とのこと。図書館にはなかったよぉ。
 気分が萎えました。そこで、もっと薄くて「中」がないのを借りてきました。

【ただいま読書中】『湖水の疾風 ──平将門(上)』童門冬二 著、 学暘書房、1993年

 こちらでは将門の青年期(上京後)から話が始まりますが、“対比者”として平貞盛が存在していることは海音寺潮五郎と同じです。(歴史で、将門は反乱を起こし、貞盛はそれを鎮めて平氏の隆盛につないだわけですから、貞盛が“成功者”として扱われるのは当然のことでしょうが) ただ、「無骨な田舎者の将門」と「世渡り上手で都で上手く出世する貞盛」といった単純な対比ではありません。将門にも出世心はありそれなりに計算をして行動(「無骨さ」や「朴訥さ」で貴族たちにアピールをする)をしていますが、それがまた自己嫌悪の元となってしまいます。そして貞盛には貞盛の自己嫌悪や表には出せない怒りや哀しみがあります。なんだか近代的な人物造型となっています。
 当時の都で絶大の権勢を誇るのは、藤原北家の忠平。貴族だけではなくて皇族でさえ、その“ポスト”は忠平の思うがままでした。皇族であっても「親王」になれない者は「王」と名乗り、あるいは臣籍降下して都落ちをしていました。将門や貞盛の祖先の高望王も皇族でしたが「平」という人臣の姓をもらって東国に降りたのでした。そこで高望王は地元に定着し、一族を各所に配置して勢力を高めていったのです。
 父の良将が亡くなり、下総の所領は他の一族によって侵され始めました。将門は国に帰ることにします。都に未練はありません。しかし数年ぶりに戻った郷里もまた“楽園”ではありませんでした。親が苦労して開拓した土地は親戚に奪われ、思い人との結婚は許されず、将門は逆境からの出発をすることになります。そこで出会ったのが、高麗産の馬でした。日本固有種とは違って大型で力強い馬体は「輸送手段」ではなくて「武器」として使えると将門は考えます(『落日の剣』(ローズマリ・サトクリフ)でも大型の「馬」が重要な武器だったことを私は思い出します)。同時に将門は、関東特有の農業振興と渡来人たちとの共生といった“新事業”を始めます。どんな人も豊かに暮らせる「常世の国」づくりです。
 将門を慕って人々が集まり始めますが、その中には「俘囚(陸奥から日本各地に強制移住させられた蝦夷たち)」も多数混じっていました。さらに境界争いのもめ事も持ち込まれます。将門の「任侠の徒」としての精神を見込んでのことでしょうが、それは同時に大きなトラブルを呼び込むことにもなっていきました。境界争いの調停を行なおうとした将門に対して、有力な豪族源護が手勢を動かしたのです。その戦いで、平貞盛の父である国香を将門は攻め立て自殺させてしまいます。
 藤原忠平の命で事件を調査した貞盛は、自分の父が死んだにもかかわらず、将門に非はないと確信します。それは武人としてよりも都人としての判断でした。しかしそれは、平氏一族に次の争乱の種を蒔いてしまいます。このとき将門は貞盛をわざと逃がしていますが、それは貞盛が自分の“理解者”であることをわかっていたから、というのが本書での解釈です。
 しかし一族の争乱は続きます。将門はいいかげんうんざりしますが、もっとうんざりしたのは朝廷の方。ちょうど南海でも海賊による争乱が起きて対応にてんやわんやなのに、東国まで乱れたら困るのです。とうとう「ワルモノ」として将門が名指しをされてしまいます。お前がいるから国が乱れるのだ、と。
 なにか世の中で上手くいかないことがあったら「ワルモノ」「真犯人」が簡単に名指しされるのは、「日本の伝統」のようですね。そんなに世の中が簡単だったら、最初から世の中が乱れはしないと思うんですけど。