【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

医者は理系?

2015-02-15 07:17:01 | Weblog

 今の教育制度では医者は「理系」となっています。だけど「日本で最初期の西洋医者」である蘭学者の代表の杉田玄白や前野良沢は『蘭学事始』を読む限り自分の手で解剖や手術はしていません。むしろ「翻訳者」として名前を挙げています。つまり、彼らは「文系」なんですよね。

【ただいま読書中】『医学は歴史をどう変えてきたか ──古代の癒やしから近代医学の奇跡まで』アン・ルーニー 著、 立木勝 訳、 東京書籍、2014年、2400円(税別)

 古代エジプトではミイラが作られていましたが、それは人体解剖学には発展しませんでした。「解剖学」が成立したのは、イタリアルネサンス以降のことです。それによって人体内部の大まかな構造がわかり、顕微鏡が発明されて細かい構造が次々明らかにされていき、「人体は機械システムだ」という概念が生まれました。化学が進歩すると「人体は化学システムだ」という概念も登場します。この「機械論者」と「化学論者」は、激しい論争を繰り広げたそうです。
 病気の原因について最初に担当していたのは宗教でした。神の怒りや悪魔の仕業、という説明です。戒律で食生活に触れたものが多いのですが、実は食中毒の予防として効果的なものがけっこう含まれているそうです。このへんは体験から学んだものが含まれている、ということなのでしょう。つぎは「毒性の空気」。西洋では「瘴気(ミアズマ)」古代中国では「邪気」。実はこのミアズマ、寿命が長くて『大草原の小さな家』でも「マラリアの原因」として登場しています。イスラムでは「病気は神がもたらすもの」でしたが「個人間での伝染は、隔離で予防できる」とも考えました(1020年イブン・スィーナー(英名アヴィセンナ))。そして、コッホやパスツールが登場します。
 ビタミン、ホルモン、酸素……新奇なものが発見されるたびに人々は熱狂します。「それさえあれば、健康になれる」と。ちなみに現代は、サプリとダイエットと……あと、何でしたっけ?
 社会の中での医師の地位も歴史のなかで変動します。そもそも医者というのは「身分」とか「階級」をは馴染みが悪いもののようで、ひどく持ち上げるか貶めるか、歴史のなかでも社会は医者の扱いに困っている様子です。古代ローマでは、ガレノスのような自由民で身分の高い医者もいれば奴隷医者もいました。中世ヨーロッパでも、大学を出た医者と徒弟制度の外科医(床屋外科)や同じく徒弟制度の薬種商などとでは明らかに身分差があります。日本でもたとえば江戸時代には「御殿医」「藩医」という「上」の医者もいれば「村医者」「の医者」なんて「下」の医者もいました。私は「現代日本の医療」をついつい“標準”として考えてしまいがちですが、歴史的にはそれは“例外的な存在”なのかもしれません。