【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

絵解き

2015-02-20 07:08:47 | Weblog

 文字通り読めば、絵を解きあかすこと。
 するとどんな事件も一度「絵」にしないといけませんね。

【ただいま読書中】『ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」はなぜ傑作か? ──聖書の物語と美術』高階秀爾 著、 小学館101ビジュアル新書、2014年、1100円(税別)

 多くの壁画や浮き彫りで飾られた中世の聖堂は「字が読めない人のための聖書」と言われました。詰まり昔の絵画は「読み解くもの」だったのです。そこで語られる「大きな物語」としては、ギリシア・ローマの神話と聖書があります。
 まず登場するのは「システィーナ礼拝堂の天井画」。ミケランジェロは、天地創造・エデンの園(と追放)・ノアの方舟を描きましたが、壁面にはモーゼとイエスの物語も描かれているそうです。天井だけ見て帰ってはいけないんですね。
 中世の絵画は平面的ですが、ルネサンスに「人体を立体的に描く技法」が広がりました。著者はここで様々な絵を紹介しつつエデンの園について語りますが、私は「立体的な描法」の方に興味がそそられます。おそらく、解剖学的な知識が画家レベルにも広がってきたことが重要なのでしょうが(西洋で重要な解剖学書『ファブリカ』(ヴェサリウス)の出版は1543年です)、同時に「聖書を通じてではなくて、自分の目で世界(人体を含む)を見つめるまなざし」を人々が獲得したのではないか、とも私には思えました。
 旧約聖書の「外典」である「ダニエル書」からは「水浴のスザンナ」(ティントレット)という絵が紹介されます。そういえば私は旧約聖書の正典は読んでいますが外典はまだでした。これは一度読んでみなくては。この「スザンナ」は多くの画家に好まれましたが、その理由の一つが「女性のヌードを堂々と描ける」ことだったそうです。
 ダビデの物語、旧約聖書の「雅歌」、サロメ、受胎告知、と「絵解き」が行われ、最後が「最後の晩餐」です。
 ダ・ヴィンチ以前にも「最後の晩餐」は様々な画家によって描かれています。しかし「キリスト以外は誰が誰やら」状態のものがほとんど。さすがにユダだけは明確になっていますが。ダ・ヴィンチは、人物の配置や遠近法を工夫することでイエス・キリストを画面中央に浮き上がらせ、さらに12人の弟子たちにそれぞれの「ドラマ」を演じさせます。さらに絵全体で「見えないドラマ」も表現されています。
 私はキリスト教にはそれほど詳しくないので「そんなものか」と思いながら本書を読みましたが、画家というものは本当に工夫をしているんですねえ。