今回のコロナ禍でインタビューを受けていた農家の人が「技能実習生が来日できなくなった。日本の農業は彼らに頼っているのに、これは困る」と言っていました。これって「実習生」ではなくて「貴重な労働力」ということですよね? それならそう呼べば良いのにな。
【ただいま読書中】『ルポ 技能実習生』澤田晃宏 著、 筑摩書房(ちくま新書1496)、2020年、860円(税別)
著者は二軒の「高卒後数年で建てた家」を紹介します。最初は埼玉、高卒で鉄鋼メーカーに就職、25歳で結婚、年収500万円となり27歳で35年ローンを組んで一軒家を建てた青年。今の日本ではすごい「成功例」です。もう一件の家はベトナム。技能実習生として3年勤めた青年は、日本で彼女ができ、月の手取り17万円のうち14万円を家に送金、それでとっても豪華な家が建ちました。
著者は、前者では少し痛々しい思いをし、後者では(自分の境遇と引き比べて、何もかも手に入れているように感じ)嫉妬を覚えます。
「技能実習生」は「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」によれば「開発途上国に日本で学んだ技能や知識を持ち帰って母国で活かしてもらうための『国際貢献』」が目的の制度です。2019年末で約41万人。永住者よりは少ないけれど、留学生よりは多い人数です。法律では「技能実習は、労働力の需給の調整の手段として行われてはならない」と第三条に明記されていますが、皆知ってます、それがただのタテマエであることを(電子機器や食品加工など途上国にない職種も認められていますが、それをどうやって「移転」するんでしょうねえ)。
この制度が始まった頃は中国人が多く来日していましたが、現在はベトナム人が主力になっています。日本では「奴隷的な労働」などと評されますが、ベトナム人からは日本は魅力的なのだそうです。その募集広告を「もしも日本で日本人を募集するなら」という仮定で日本の生活レベルに合わせて“翻訳”すると「3年の労働で貯金が1500万〜2500万円できる。ただし真面目にコツコツ働けば。なお初期費用は500万円」となるそうで、親の年収以上を一箇月で仕送りできるのなら、と借金をしてでも日本に、という若者が目白押しとなるのだそうです。ただ著者がベトナムで見かけた募集ビラでは、日本の“ライバル”が増えていて(たとえば韓国やルーマニア)、特に介護人材を必要とするドイツは渡航費もドイツ語学習や介護資格取得費用もドイツ政府や雇用主が負担しているそうです。そのへんがすべて自費の日本は、“労働力”をドイツに持って行かれるかもしれません。
著者が取材すると、「日本から帰国後、雇われていた企業のベトナム法人の責任者に」という、法律のタテマエ通りの「海外への技術移転」が理想的に実現していた例もありました。ただしそれは本当に少数で、ほとんどは「ただの出稼ぎ」だったのです。外国人技能実習機構が実施したアンケート調査では帰国した実習生の98.2%が「日本で学んだことが帰国後役立った」と回答したことになっていますが、調査対象者は帰国直後の人たちで、回答率は27%。実際にベトナムでロングインタビューをした大学講師の調査では、日本で「実習」したのと同じ職種に就いている人はおらず、一番役立ったのは「技術や知識」ではなくて「日本語」だったそうです(日本語教師として働いている人が多くいました)。お役所はこういった不都合な真実は否認するでしょうね。
ベトナムから日本への「送り出し費用」として実習生は50〜100万円を負担(借金)しなければなりません。ベトナムの物価水準を勘案するとずいぶん高額に思えますが、その“内訳”については、なかなかどぎつい事情があるようです(肉弾接待とかキックバックとか)。
「ベトナムの平均的な年収の2年分の借金」は重いものです。それがベトナム人の日本での犯罪や失踪につながっている可能性があります。著者は失踪予定者(これから失踪しようとしている人)へのインタビューにも成功します。いやあ、その人の口から出る日本での労働の実態のひどいこと。これはたしかに「奴隷」だわ。もちろん、だから失踪してもよい、とは言えませんが、ベトナム人に向かって「悪いことをしてはいけない」と求めるのなら 日本人に対しても同じことを求めないと、嘘だよね。
もしもベトナムから人が来なくなったら、別の国から、というのが業界の方針のようですが、それで良いんですかねえ。もう一つ気になったのが、政府の無関心。技能実習生が実際にどのような環境で働いているのか、全然興味を示していません。もうちょっと「現実」に興味や関心を持たないと、「社会問題」の解決以前に、その存在さえわからないまま日々を過ごすことになっちゃいませんか?