「自分はこんなにお前のことを思っているのだから、お前はこの気持ちに応えてくれるべきだ」はストーカーの論理(自己正当化)です。ではいじめでよく登場する「自分はお前のことをこんなに嫌っているのだから、お前はさっさと死ぬべきだ」は、ストーカーの論理のまんま裏返しとも言えるのではないでしょうか。どちらも「自分の欲望の通りに他人は行動するべきだ、自分にはそれを他人に強制する“権利”がある」と思い込んでいる構造が共通です。
【ただいま読書中】『ベア・アタックス(II) ──クマはなぜ人を襲うか』S・ヘレロ 著、 島田みどり・大山卓悠 訳、 北海道大学図書刊行会、2000年、2400円(税別)
クマの嗅覚は鋭いのですが、それは進化の過程でイヌと共通の祖先を持っているからかもしれません。本来は肉食獣ですが、少しずつ植物食をするようになり、現在は植物食の方が基本となっています(それは、実際の生活の観察や歯の構造を見てもわかるそうです)。それはすなわち、「人間の食物(と生ごみ)」がクマにとって魅力的なカロリー源であることを意味します。そして「成功したクマ」とは「よく食べたクマ」であり、「クマがいる場所」は「食物がある場所」です。木の実、果実、地表の植物、地下の根や球根、昆虫(グリズリーはアリやハチもせっせと食べるそうです)、カニ、魚、そしてもちろん哺乳類(生きていても死骸でも)。その他紹介されている中で面白かったのは、グリズリーがプランターで栽培されているマリファナをプランターごと持ち去った例です。この場合は、肥料で使われていた魚粉が目的だったようで、マリファナは食べ残されていたそうです。
活動の痕跡やクマが自分の意図を示すために行うジェスチャーや表情についての解説も詳細です。こういったことに紙幅を費やしているのは「知識」によってクマとの遭遇チャンスを少しでも減らすためです。
「銃を持っていれば安全」と思い込んでずかずかと熊の生息地に侵入して「挑発」する人がいますが、その態度に著者は否定的です。自分に向かって素早く突進してくるクマに対してあと数歩のところで冷静に発砲して急所を撃ち抜くことができるためには、相当な練習と覚悟が必要だ、と。
1996年8月8日、カムチャツカ半島南端クリル湖で、世界的な写真家星野道雄はヒグマに襲われて殺されました。ただしこのヒグマは「野生のクマ」ではありませんでした。ロシアのテレビ局が餌付けをし、人間に対して大胆に振る舞うことを学習したヒグマだったのです。豊かな才能を持つ写真家が失われたことを著者は悲しんでいます。それと同時に、人間の愚かさについても言葉は柔らかいのですが、鋭い怒りを表明しています。クマは「自然の一部」です。それを「不自然」にしているのは、誰だ、と。