自ら望んで引き受けた責任ではないものでも「すべて自分の責任だ」と涙する主将もいれば、自ら望んでいたのに良いことは「自分の手柄」で何か悪いことが起きたら「海外の要因だ」とか他人のせいにする首相もいます。
【ただいま読書中】『オルゴーリェンヌ』北山武邦 著、 東京創元社、2014年、1900円(税別)
美しく衝撃的なオープニングです。生きている女性の体をそのままオルゴールにしよう、というのですから。ちなみに、タイトルの「オルゴーリェンヌ」は「少女自鳴琴」のことだそうです。
『少年検閲官』の事件から3箇月後、クリスは長い長い鉄道橋(瀬戸大橋?)を渡った先の町で、検閲官たちに追われている少女ユユと出会います。彼女は口がきけず、検閲官が狩り立てる禁制の品を持っている様子もありません。わけもわからずユユと一緒に検閲官から逃げ回るクリスは、少年検閲官のエノと再会します。ちょっと強引な再会ではありますが。たしかエノは、単独では外出できないように心的規制をかけられているのに、それまで運転したこともない自動車をたった一人で上手く操縦してクリスの所にやって来るのですから。しかもエノの心からは感情など削除されているはずなのに、明らかにクリスに対する愛着の傾向が見えます。
オープニングが展開されたカリヨン邸に向かったクリスたちは、別の少年検閲官カルテと出会います(というか、対決します)。反応がシンプルなエノとは対照的に、カルテはけだるく何を考えているのかわからないタイプでした。そして2人の検閲官は、それぞれの理由から屋敷の捜索を始めます。
『少年検閲官』では「首無し屍体」のパレードでしたが、今回は「氷」がテーマのはずです。しかしクリスたちが最初に出会った屍体は、鉄塔の残骸で空に向かって伸びる鉄柱に上から突き刺さった不可解な状態のものでした。
殺人は続きます。連続殺人事件です。そして最後には密室殺人事件が。検閲官によって「ミステリ」が削除されたはずの世界で、ミステリが堂々と実行されているのです。まるで検閲官を挑発・愚弄するかのように。殺人の動機は何か、そのトリックは、そして真犯人は誰か?
異様な世界ですが、今回もトリックはきわめてまっとう(物理的に可能なもの)です。そして、最後の謎解きは二転三転、名探偵(迷探偵?)たちによって読者は翻弄されます。「ミステリ」が何かを楽しんでいるかのようです。ただ、最後の“真相”は、動機や体力やトリックの必要性の点でちょっと弱いと私には思えました。残念。
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