瞑想と精神世界

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日本になぜキリスト教は広まらなかったのか?(3)

2010年02月20日 | 瞑想日記
前回、日本文化のユニークさとキリスト教が広まらなかった理由を、仮りに3点からまとめてみた。

(1)狩猟・採集を基本とした縄文文化が、抹殺されずに日本人の心の基層として無自覚のうちにも生き続けている。

(2)ユーラシアの穀物・牧畜文化にたいして、日本は穀物・魚貝型とで言うべき文化を形成し、それが大陸とは違うユニークさを生み出した。

(3)大陸から適度に離れた位置にある日本は、異民族(とくに遊牧民族)による侵略、強奪、虐殺など悲惨な体験をもたず、また自文化が抹殺される体験ももたなかった。

今回以降は、この三点のそれぞれについて、少しだけ考察してみたい。今日はまずは(1)について。

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縄文文化については、稲作がどの程度普及していたのかという点も含めて、今なお論争が続いているが、縄文土器や土偶などに見られるような縄文時代の心性が、日本文化の基層を形づくったことは確かだろう。

今から二千数百年前に、本格的な稲作技術をもった渡来人が大陸から日本列島に渡ってきた。その渡来人の人口は、縄文人のおよそ2倍から3倍と言われる。しかし、一度に大量に渡来したのではなく、およそ千年の間に徐々に渡ってきたものと思われる。それゆえ、渡来人が縄文人の文化を圧殺したり駆逐したというよりは、むしろ縄文文化に溶け込み、同化する面が多分にあったと思われる。

縄文時代は、中期にすでにひとつの言語的なまとまりが成立していたと言われる。したがって小集団ごとに渡来した人々は、長い年月の間に言語的にも縄文人と同化していったであろう。

縄文文化が基層文化として生き残ったのは、日本が大陸から適度に隔たった島国であるということや、その大半を山岳と森に覆われいたという地理的な条件に負うところも大きいだろう。海で隔てられていたからこそ徐々にしか渡来できなかった。また山と森に覆われていたからこそ、縄文人と弥生人の緩やかな住み分けと共生が一定期間可能であったのである。

こうして縄文的基層文化は、弥生時代になっても消えることなく、銅鐸の文様に縄文的な図形が描かれ、弥生土器にも縄文土器の流れをくむものが見られるのである。

その後大陸から仏教がもたらされるが、仏教は縄文的な基層文化に合うように変形され、受け入れられていくのである。それは、神道と仏教が、それぞれの要素を取り入れながら並存していくという形としても現れた(本地垂迹説など)。仏教に対しても縄文的な基層文化は根づよく生き残ったのである。

ちなみに朝鮮半島では、仏教以前の宗教の痕跡がほとんど残っていないという。ヨーロッパでは、キリスト教以前のケルト文化などが注目されるが、それはほとんどの地域でキリスト教によって圧殺されていったのである。

やがて日本にもキリスト教が伝来する。しかしこの宗教は日本列島にはほとんど定着することができなかった。キリスト教は、日本の基層文化にとってあまりに異質なために受け入れ難く、また受け入れやすく変形することも難しかったのである。

キリスト教は、形を自由に変えて受け入れることを拒む強固な原理性をもっている。日本に合うように形を変えてしまえば、それはもはやキリスト教とは言えないのである(正統と異端の問題)。仏教が、原始仏教と大きくかけ離れても仏教でありうるのとは好対照をなしている。

西洋文明は、キリスト教を背景にして強固な男性原理システムを構築した。男性原理的なキリスト教に対して縄文的な基層文化は、土偶の表現に象徴されるようにきわめて母性原理的な特質を持っている。その違いが、日本人に直観的に拒否反応を起こさせたのではないか。一神教は、砂漠の遊牧文化を背景として生まれ、異民族間の激しい抗争の中で培われた宗教である。牧畜・遊牧を知らない縄文文化と稲作文化によってほぼ平和に一万数千年を過ごした日本人にとってキリスト教の異質さは際立っていた。キリスト教的な男性原理を受け入れがたいと感じる心性は、現代の日本人にも連綿と受け継がれているのである。

日本文明は、母性原理を機軸とする太古的な基層文化を生き生きと引き継ぎながら、なおかつ近代化し、高度に産業化したという意味で、文明史的にもきわめて特異な文明なのである。

《参考文献》
古代日本列島の謎 (講談社+α文庫)
人類は「宗教」に勝てるか―一神教文明の終焉 (NHKブックス)
山の霊力 (講談社選書メチエ)
日本人はなぜ日本を愛せないのか (新潮選書)
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